五十肩を徹底解剖する

「肩」に問題ありと思っていたら「首」からくる神経痛だった

写真はイメージ
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 1週間ほど前から左肩痛がある55歳の男性。最初は五十肩と軽く考えていたのですが、日によっては肩から肘にかけての痛みが出たり、肘から親指、人さし指、中指のしびれを覚えたりします。

 心配になり整形外科を受診。問診後、肩と首のレントゲン撮影が指示されました。すると、肩は問題なく、首は加齢による変化とストレートネックが指摘されました。

 診察では、まず両方の肩をあらゆる方向に動かされましたが、動きに左右差はなく、痛くもありませんでした。

 次に首を後ろに反らすように言われました。すると左腕へ放散する痛みが走り、首を戻すと痛みは消えました。首から腕に伸びる神経の状態を調べる筋力・感覚・反射のテストでは、筋力はあるものの左腕の感覚の鈍さが判明し、反射が低下していると言われました。

 これらの結果から、診断名は「頚椎症性神経根症」でした。「首からくる神経痛。五十肩と間違われやすい」との説明で、神経痛に効く薬が処方されました。再診時には痛みはずいぶん鎮まっており、追加検査したMRIでも神経が挟まっている様子が確認できたとのことでした。

 頚椎症性神経根症は、加齢による頚椎の変性で神経根が圧迫されて生じる症候群です。肩回りに痛みが生じるので五十肩と思われがちですが、前述の通り、肩関節自体には問題ありません。また責任神経が支配する筋力の低下、腱反射減弱、感覚障害が認められます。ただし、肩関節の可動域制限、可動時痛はなく、動き自体もスムーズです。

 首を過度に反らすと神経根が圧迫されることが多いため、うつぶせでの読書や天井に向けての作業で痛みが出てきます。また猫背だとパソコン作業でも相対的に首は反ることになります。いずれも、頚椎症性神経根症の人は要注意です。

 なお、神経根は脊髄から左右に枝分かれした細い神経で、首の神経根は左右に8本ずつあり、それぞれが体の決まった部分を支配します。痛みが肩甲上部にあれば第5、6神経根症が、肩甲間部・肩甲骨部にあれば第7、8神経根症が疑われます。

安井謙二

安井謙二

東京女子医大整形外科で年間3000人超の肩関節疾患の診療と、約1500件の肩関節手術を経験する。現在は山手クリニック(東京・下北沢)など、東京、埼玉、神奈川の複数の医療機関で肩診療を行う。

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