今回は夏場に多い細菌性食中毒の治療についてお話しします。
よく見られる吐き気や嘔吐、下痢などの症状は、細菌自体によるものではなく細菌の出す毒素である場合が多く、毒素に対して抗菌薬を使っても症状が改善することはありません。また、冬場に多いノロウイルスによる食中毒に対しても抗菌薬は無効です。このため、食中毒では症状に対する対症療法が主な治療法となっています。特に、下痢、嘔吐に伴う脱水症状は致命的になるケースもあるので、早めに医療機関を受診することが大切です。
脱水時には水分と一緒に塩分も失われている場合が多く、塩分も一緒に摂取することが有効です。脱水症の治療に用いられる経口補水液(ORS)については、以前も取り上げました。下痢をしたり嘔吐している状態でも、水分と塩分はそれなりに吸収されます。飲める時に飲むように心がけましょう。小さなお子さんなどには、スプーンでゆっくりと飲ませるとよいでしょう。吐いてしまっても、10分ほど待ってから繰り返し飲ませてください。また、脱水症状がひどい場合には点滴なども必要となります。
さて、食中毒の症状のひとつに下痢があります。脱水の原因にもなるので、下痢止め(止瀉薬)を使いたくなるところですが、食中毒による下痢に対しては下痢止めを使うべきではありません。
食中毒で下痢が起きているときは、原因となる毒素や微生物が消化管の中にたまっている状態です。消化管では、腸内の物質を肛門へ向けて押し流そうとする動きがあるのですが、多くの下痢止めはこの動きを抑えてしまうのです。そのため、食中毒のときに下痢止めを使ってしまうと、原因になっている毒素や微生物の排泄が遅れてしまい、なかなか症状が良くならない……といった不具合が起こってしまうのです。
ちなみに、「整腸剤」と「下痢止め」は異なる薬です。整腸剤は、乳酸菌などいわゆる腸の善玉菌を薬にしたもので、腸内部の環境を整える作用を持ちます。腸の動きを抑えることはありませんので、食中毒のときに整腸剤を使用するのは問題ないと考えられています。