老親・家族 在宅での看取り方

病院でなくても輸血はできる 患者さんは揃って「楽になった!」

写真はイメージ(C)PIXTA
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 急性白血病や多発性骨髄腫、悪性リンパ腫など血液疾患の患者さんは、「輸血」が非常に重要な治療のひとつになります。血液疾患の患者さんには高齢者も多く、また遠方への通院が困難という方もいて、在宅医療の希望者が増えているのですが、実行に移せない方が多かった。というのも、在宅での輸血を行っている医療機関が少なかったからです。

 当院では、「在宅輸血」を訪問診療で行っています。その話をどこかから聞いて、在宅医療の相談に当院を訪れた患者さんのご家族からは、「本当に在宅でできるんですか!?」とよく確認されます。「輸血=病院でしかできない」という刷り込みが強いのでしょう。当院では、状況によっては遠方のケースにも対応しています。また、最近は在宅の輸血に対応する医療機関が少しずつ出てきています。

 患者さんやご家族が必ずといっていいほど口にするのは、「楽!」。普通に病院で輸血を受けようとすると、患者さんは朝から病院へ出向き、採血、血液製剤と患者さんとの適合性を確認するクロスマッチ検査を受け、その結果を待つ。 

 検査結果が出るまでの待ち時間は短くて5時間、長くて8時間以上。その間、患者さんは待合室でひたすら待つのです。結果が出てから、ようやく輸血開始。場合によっては丸1日潰れてしまいます。

 中には輸血のためだけに入院する患者さんも少なくなく、これは限られた病床数を有効に使用したい病院側にとっても問題といえるでしょう。

 それが在宅医療では自宅で輸血ができるわけですから便利です。前日までに採血を行い、その検体を診療所に持ち帰り検査会社がその夜にクロスマッチ検査をします。次の日の朝には結果が出て異常がなければ、血液製剤を持って患者宅に訪問し、輸血を実施するのです。

 患者さんの負担は、前日までの採血の時間と輸血の時間だけ。その他の時間は自宅で好きに過ごすことができ、通院や入院する場合に比べて患者さんや家族の負担も大幅に減少するわけです。

 輸血が必要な「骨髄異形成症候群」を患う80歳の患者さんが、この夏に当院で自宅療養を開始されました。骨髄中の造血幹細胞に異常が起き、正常な血液細胞がつくられなくなる病気です。

 この患者さんの場合は糖尿病貧血もあり、疼痛と血糖の管理と定期的な輸血管理が必要。当初、埼玉の自宅付近に輸血対応ができる在宅医療クリニックがなく、入院も考えたのですが、ご本人の希望で入院はせず。奥さまと2人暮らしの自宅での療養をするため、輸血可能な当診療所が紹介を受けたのでした。

 在宅医療を開始してさっそく「自宅でよかったです。1人でちゃんとしていられる」とご本人から率直なご感想をいただきました。

 輸血に関して、私から「輸血は2~3週間に1回のペースでやってみて、どれくらい値が落ちるか見てみます。患者さまの中には事前に輸血する場合はご連絡して欲しい方もいらっしゃるんですけど、どうですか?」とお話ししました。すると、「いえいえ、大丈夫です。いつでも」。

 患者さんと医師が会話を重ね、安心して輸血を受けられるのも「在宅輸血」の利点。輸血は病院で行うよりも、むしろ在宅医療の方が合っているのではないかと、経験上、考えています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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