近年、魚介類に潜む寄生虫アニサキスが体内に入り、激しい腹痛や吐き気などの症状を起こすアニサキス症の被害報告が増えている。輸送技術が発達し、魚を生で輸送できるようになり、アニサキスも生きたまま運ばれるようになったことが関係している。
「日本人は、刺し身や寿司など魚介類の生食の文化がある。そのため、アニサキス症の発生件数が非常に多いのです」
こう話すのは、日本感染症学会専門医で、寄生虫症の臨床と研究、海外渡航者の健康管理などに長年関わってきた「グローバルヘルスケアクリニック」(東京・麹町)の水野泰孝院長だ。
アニサキス症の症状は前述の通り、激しい腹痛や吐き気。記者もアニサキス症になったことがあるが、文字通り七転八倒するほどの痛みだった。
「食品から感染して起こる寄生虫症は全て、食べたか食べていないか、どれくらい食べたかで、感染リスクが変わります。食べなければ絶対に感染しませんし、食べた機会・量が少なければ感染リスクも低い」(水野院長=以下同)
アニサキスは、サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどの「生」から人間の体内に入ることが多い。
アニサキス症を回避するには、60度で1分以上加熱してから食べる。刺し身や寿司など「生」の場合は、マイナス20度で24時間以上冷凍処理したものを選ぶ。冷凍処理していれば、アニサキスは死滅しているのだ。
調理時や食べる時は目視し、それらしきもの(数センチのヒモ状)を見つけたら取り除く。醤油、ワサビ、酢ではアニサキスは死滅しないので、例えば「シメサバだから安心」とはならない。
万が一、アニサキス症になったら……。診断と治療を兼ねて胃内視鏡検査を行い、虫体が確認できれば摘出する。
なお、高知大理工学部の松岡達臣教授らが、胃腸薬の正露丸を通常服用量溶かした液にアニサキスを30分浸す処理をすると、ほぼ全てのアニサキスが運動を停止、24時間後には死んだことを確認。また、胃と同じ濃度の消化酵素に浸すと、24時間以内に分解が始まったことを国際専門誌に発表している。
■サナダムシは体内で生息し続ける
水野院長は2019年にクリニックを開院したが、「予想以上の多さで最初は驚いた」と話すのが、日本海裂頭条虫、いわゆるサナダムシに感染した患者の相談だ。
「サナダムシはサケやマスの筋肉に潜む寄生虫で、アニサキスと同様に、サケやマスを生で食べることで感染する。アニサキスの場合、人間の体内では成虫にならないので、やがて死滅してしまう。ところがサナダムシは人間の体内で成虫になり、すみ続けます」
アニサキス症とは違い、サナダムシに感染しても多くは無症状だ。
「ただ、成虫となり生きているので、お尻から出てきたりする。また、虫体の一部が切れて便と一緒に排泄される。患者さんは『お尻からヒモのようなものが出てきた』『便にヒモのようなものが混ざっている』と驚いて、受診されます」
サナダムシは、錠剤プラジカンテルを1回服用すれば治療終了だ。
「ところが、この薬を常備している医療機関はまれで、さらに寄生虫を的確に診断できる医師が極めて少ない。患者さんの中には『(別の医療機関で)サナダムシの治療を受けたのに、またお尻から出てきた』と訴える方が少なからずいます」
「お尻」「便」というキーワードから「サナダムシ=消化器科」と思いがちだが、消化器科の医師がサナダムシ治療に詳しいとは限らない。
アニサキスは消化器科での治療となることが多いがサナダムシは感染症内科の受診をお勧めする。