前回、かゆみ止めとして多く使われる「抗ヒスタミン薬」の副作用についてお話ししました。今回はその副作用がもたらす「食べる」ことへの影響について注目してみます。
抗ヒスタミン薬の副作用によって生じる眠気は、「食べる」ことに悪影響を及ぼします。みなさんは眠気が強いときにご飯を食べることはできるでしょうか? おそらくできないでしょう。他の人に食べ物を口に運ばれたとしても、まず咀嚼(そしゃく=噛み砕くこと)すらしないでしょう。われわれは食欲より睡眠欲のほうが強いというと語弊があるかもしれませんが、食欲は覚醒しているときに機能するのです。
唾液も「食べる」ことに関してかなり重要な役割を担っています。われわれは食べ物を咀嚼するとき、もぐもぐしながら無意識に舌の上に団子を作っています。これを食塊と言いますが、唾液は食塊形成のときに“つなぎ”の役割をしています。抗ヒスタミン薬には口渇感の副作用もあり、その影響で唾液が少なくなると、咀嚼の際に食塊を作れなくなってしまうのです。食べ物は、食塊にできないとパサパサして、口の中で散らばり、まったく飲み込むことができません。また、仮に少ない唾液で食塊が作れたとしても、唾液は飲み込む際の“潤滑油”としての役割も持っているため、やはり飲み込むことができないのです。
さらに、唾液は味覚にも必須です。じつは、われわれは食べ物そのものだけでは味を感じることができません。唾液に味の成分が溶け出して、それが味を感じる細胞に到達することで初めて味を感じることができるのです。つまり、唾液が出なくなるということは、味覚障害の原因になります。一度「おいしくない」と思ったものは、次からは食べたくなくなるのが普通です。「大好きなものを食べたけれど、砂を食べているようだった」となったら、嫌いになってしまう人もたくさんいるでしょう。味覚の異常は「食べる」ことに直結する極めて重要な問題なのです。
このように、抗ヒスタミン薬も副作用である眠気や口渇感は、「食べる」ことにかなり影響してしまいます。元気な高齢者に共通している特徴のひとつに「しっかり食べている」ことが挙げられます。抗ヒスタミン薬でかゆみを止めることも大切ですが、元気に「食べる」ことはそれ以上に重要ではないでしょうか。
もちろん、疾患によってはそういったクスリを使い続けなければならないものもあります。でも、そうではないケースも多いでしょう。今回、紹介したのはあくまで一例に過ぎませんが、そのクスリを使い始めた理由をいま一度考えてみましょう。そして、症状が改善したのにダラダラと続けているクスリがないかどうかも確認してください。
もしかしたら、そういったクスリが「食べる」などの大事な日常生活のひとつに悪影響を及ぼしているかもしれません。
高齢者の正しいクスリとの付き合い方