認知症治療の第一人者が教える 元気な脳で天寿を全う

アルツハイマー病という敵を知り迎え撃つために必要なもの

検診前の一時的対策は検査の価値が半減する
検診前の一時的対策は検査の価値が半減する

 検査はゴールではありません。そのことをしっかり理解していますか?

「近々、健康診断(または人間ドック)があるので、お酒や脂っこいもの、お米やパンを控えている」という話をよく聞きます。しかしそれでは検査の価値が半減です。

 健診は、各種検査で健康状態を評価し、健康の維持、病気の予防・早期発見に役立てるもの。「現在」を正確に反映した検査結果が出てこそですし、なんらかの異常の可能性が指摘されれば、本当に問題なのかを確認するため、速やかに再検査・精密検査を受けるべきです。

 付け焼き刃に健康的な生活を1~2週間送れば、血圧や肝機能、中性脂肪、血糖値などは若干改善することもあり、そのおかげで正常範囲という結果をもらえることがあるかもしれません。そして、またそれまでの生活習慣へ戻っていく。このような健診前の一時的対策は意味があるのでしょうか?

 つまり「健診結果では正常範囲。でも実は……」ということは、大いにあり得るのです。ですので、暴飲暴食も含め普段通りの生活の中で健診を受け、そこでどんな値が出ているかを知ることがとても重要なのです。検査をゴールとせず、検査をスタートだと思って行動してほしいのです。

 認知症の“超”早期発見、“超”早期対策につながる「アミロイドPET検査」も、「ゴール」ではなく「スタート」。アミロイドPET検査は、認知症で最多を占めるアルツハイマー病の原因物質アミロイドβの蓄積量を調べる検査です。

■検査で問題ない場合でもアミロイドβがたまりづらい生活を指導

 アミロイドβがたまっていない・蓄積量が少ない場合と、たまっている場合とで、その後の対処は変わります。敵の本体を見極め、必要な作戦を立てるために、私のクリニックでは「健脳ドック」を行っています。

 それは、アミロイドPET検査に加え、MRI、血液検査、認知機能検査などを行うもの。アミロイドβがたまっていなくても、「だから安心。このままでOK」とはしません。今後はわからないからです。アミロイドβがたまりづらい生活を指導し、生活習慣病がある方はその治療を開始します。

 一方、蓄積量から将来的にアルツハイマー病を発症するリスクが高いと考えられる方には、危険因子を一つ一つチェックして除外し、認知症対策に良いと証明されていることを実行してもらう。場合によってはアルツハイマー病の新薬の臨床試験(最終段階)の参加も提案する。以前、この欄で紹介しましたね。

「for Active Life with Zeal(情熱的な人生を送るために)」をコンセプトに掲げる「アルツクリニック東京」では、アミロイドPET検査を「ゴール」ではなく「スタート」により持って行きやすくするために、「丸の内倶楽部」という会員制の認知症予防クラブも運営しています。

 アミロイドPET検査は脳の現状を客観視できるので、1回受けるだけでも十分に価値はあります。でも、2~3年後に、2回目のアミロイドPET検査を受けられれば、なおいい。

 1回目で判明したアミロイドβの量が、その後の生活習慣の改善、生活習慣病の治療、認知機能を保つために取り入れた工夫の数々によって、どう変化しているのか? 行ったことの効果がわかるからです。検査結果を一層有効活用できるわけです。

 アミロイドPET検査は検査薬が約25万円、検査機器が5億円と費用が高額なため、検査費も55万円(税別)と高額にならざるを得ない。受診者の方の負担を少しでも軽減するために、「丸の内倶楽部」では、入会金はありますが2回目のアミロイドPET検査は約半額にして、複数回でも受けやすい制度にしています。

 さらには体調に関する会員からの相談は、24時間、携帯電話で私が直接対応。「高いお金を払っていただく以上、あなたの人生を丸ごと守ります」という覚悟です。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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