五十肩を徹底解剖する

肩が上がらず戸棚に手を伸ばすのも不自由…病名は頚椎症性筋委縮症

写真イメージ
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 1カ月前から左肩が上がらなくなった73歳の男性。幸いにも痛みはなかったのですが、戸棚に手を伸ばすのも不自由なため、高血圧の治療を受けているかかりつけ医に相談しました。

 肩のレントゲンでは、骨には問題はなさそうとのこと。肩の腱が切れているせいで上がらないのかもしれないとMRIを撮り、総合病院の整形外科を紹介してもらいました。

 診察ではまずバンザイを指示されましたが、まったくできません。しかし、右手で左腕を持ち上げれば不思議なことに上がるのです。ただ、バンザイの位置で右手を離すとストンと落ちてしまいます。肩のMRIを確認したところ腱板断裂はないとのことでした。

 肩以外についても診察を受けると、実は左肩の筋力だけでなく、左肘や手首周りの筋力も弱くなっており、左腕の反射が低下していることが判明しました。

 首のレントゲン撮影も追加。その画像から、加齢による変化と部分的に骨がズレていると指摘されました。さらに首のMRIで調べると、骨がズレた部位で脊髄が狭まり圧迫されていました。

 これらの結果から、「頚椎症性筋萎縮症」と診断されました。脊髄には前角という部分と、前角から伸びる前根という神経根があります。加齢や外傷で、前角や前根が障害されると「肩が上がらなくなった」が生じるのです。前角と前根は運動をつかさどるため、異常があっても感覚は正常で痛みもなく、筋力だけが低下します。最初に肩と思い込んでしまうと、整形外科医でも診断までなかなかたどり着けない疾患です。

 ただ力がないだけですので、他力では痛みもなく滑らかにバンザイは可能です。前角や前根は、肘の力も部分的につかさどるため、肘屈曲筋力も軽度低下することが多いです。

 一方、五十肩と診断されがちな凍結肩では著しい可動制限が生じ、他力でもバンザイができません。腱板断裂や石灰性腱板炎では運動時の引っかかりと可動制限が伴います。また、これらは炎症による夜間痛や、可動時痛で動き自体もスムーズではありません。

安井謙二

安井謙二

東京女子医大整形外科で年間3000人超の肩関節疾患の診療と、約1500件の肩関節手術を経験する。現在は山手クリニック(東京・下北沢)など、東京、埼玉、神奈川の複数の医療機関で肩診療を行う。

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