動脈の血栓症は、脳梗塞と心臓梗塞に限られているわけではありません。心房細動で生じるフィブリン血栓は、大動脈から全身に送られます。また動脈硬化は全身に起こりますから、血小板血栓も、どこに生じてもおかしくありません。ただ、多くの場合、症状が軽く、致死的でないため、あまり注目されていないのです。
しかし中には、かなり危険な血栓症もあります。とくに心臓でできたフィブリン血栓が、内臓や四肢の太い動脈に詰まると、急性の、しかも重篤な症状が出ることがあります。
代表的なもののひとつが「急性上腸間膜動脈閉塞症」です。上腸間膜動脈は、膵臓、十二指腸、小腸、結腸(直腸を除いた大腸)などに、酸素と栄養を送っています。それが途中で詰まると、急に激しい腹痛が襲ってくることがあるのです。詰まる場所によっては臓器まるごと1個、あるいは複数の臓器への血流が途絶えてしまいます。診断が難しく、治療が遅れれば、臓器が壊死(えし)することもあり、命に関わってきます。また治療が間に合っても、傷んだ臓器が元に戻るのに時間を要するため、長く後遺症が残るケースもあります。
腕に向かう動脈が詰まると「上肢急性動脈閉塞症」、下肢に向かう動脈が詰まれば「下肢動脈閉塞症」となります。いずれも詰まった側の腕や足が急に冷たくなり、強く痛んだり、しびれたりします。また血液が不足するため、皮膚が青くなることもあります。これも治療が遅れれば、腕や足が壊死することがあり、最悪の場合は切断を余儀なくされるといいます。
もちろん、血小板血栓があちこちで詰まる場合もありますが、一般に軽症で済むことが多いようです。ただし、血小板血栓症は、動脈硬化がもとで起こるため、慢性化しやすいといわれています。
これらの血栓症は、症例が比較的少ないこともあって、血液型との関係はほとんど調べられていません。ただ内臓や四肢のフィブリン血栓症は、非O型のリスクが、O型と比べてかなり高いことが予想されます。また血小板血栓症も、非O型のリスクが少し高い可能性があります。
急に激しい症状が襲ってくるフィブリン血栓症と、何度もぶり返す血小板血栓症。どちらも避けたいところです。不整脈がある場合はその治療、動脈硬化がある人は運動と食事に気をつけて、悪化を防ぐ必要がありますが、とくに非O型の人は気をつけるべきでしょう。
永田宏
長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授
筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。