糖尿病の人は歯の喪失リスクが高…「歯を守るためのポイント」

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 糖尿病では、「網膜症」「腎症」「神経障害」が3大合併症といわれるが、血糖値が高い状態が続くと体中の血管が障害されるため、ほかにもさまざまな合併症を引き起こす。中でも近年、注目されているのが「歯の喪失」だ。小林歯科医院院長の小林友貴氏に聞いた。

 2022年4月、内分泌障害を扱う英国の医学誌「BMC Endocrine Disorders」に2型糖尿病と歯の喪失の関連についてのメタ解析の結果が報告された。2007~21年に欧米、中東、アジアなど世界中で実施された2型糖尿病と歯の喪失の関連を調査した22件の研究(67万7532例)を用いて解析したところ、2型糖尿病の患者は、そうではない人と比べて歯の喪失リスクが20%増加していたという。

 また、日本でも滋賀医科大学などの研究グループが20~74歳の男女23万人超のデータを解析したところ、高血糖の人ほど歯の本数が少ない傾向があると報告している。

 なぜ、糖尿病によって歯が失われてしまうのか。

「糖尿病と歯周病は密接に関係していて、糖尿病の人は歯周病になりやすいことが多くの研究で知られています。歯を失う原因として最も多いのは歯周病ですから、糖尿病の人は歯の喪失リスクも高いのです。糖尿病と歯周病が相互に影響を及ぼす要因になっているのが『TNF-α』という炎症性サイトカインで、糖尿病の人も歯周病の人も、同じようにTNF-αの血中濃度が高いことがわかっています。TNF-αは炎症が起こっているところで中心的に働く物質で、炎症の悪化や組織の障害に関わっています。ですから、糖尿病があれば歯周病に、歯周病では糖尿病になりやすくなったり、状態を悪化させることにつながります」

 糖尿病で高血糖になると白血球の一種である好中球の機能が低下して、体内に入り込んだウイルスや細菌を排除する働きが悪化する。また、高血糖では毛細血管の血流が悪化するため、酸素や栄養を体の隅々まで十分に届けられなくなって細胞の働きが低下する。こうしたことから糖尿病の人は「易感染性」と呼ばれる感染症にかかりやすい状態になる。その結果、体のあちこちで炎症が起こり、TNF-αをはじめとした炎症性サイトカインが増えてしまう。

「歯周病は、口腔内に生息する歯周病菌が原因で起こります。歯周病菌が歯と歯肉の隙間=歯周ポケットに蓄積して増殖すると、歯肉が炎症を起こして腫れたり出血しやすくなり、進行すると歯周ポケットが深くなって歯を支える歯槽骨が溶け、歯が抜けてしまうのです。歯周病菌は内毒素を放出するため、歯肉などの歯周組織や粘膜に慢性的な炎症を引き起こします。そのため、TNF-αなどの炎症性サイトカインも増えるのです」

■血糖をコントロールしたうえで歯周病の治療を行う

 つまり、糖尿病と歯周病が合併している人は、両方ともきちんと治療して炎症性サイトカインを減らさなければ、どちらも十分な改善は望めないということになる。

「糖尿病で歯を失わないようにするには、治療で血糖コントロールを適切に行ったうえで、定期的な口腔ケアを続ける必要があります。当院では歯科治療の前に血糖の指標であるHbA1cの数値を確認し、あまりにも血糖コントロールが悪い人は治療を見合わせるケースもあります。高血糖の人は感染症になりやすいため、抜歯や歯石除去、インプラントなどの外科的な治療による感染リスクが高いのです。歯周病を改善するには、正しいブラッシング指導と、歯の表面や歯周ポケットの中に付着している歯石やバイオフィルム(微生物の集合体)を特殊な器具で取り除く『歯周基本治療』が欠かせません。ですから、糖尿病と歯周病がある場合、歯周病の治療を行う前に、まずは血糖をコントロールする必要があるのです」

 歯の喪失はQOL(生活の質)を低下させ、糖尿病と歯周病だけでなく、認知症やがんといったほかの病気につながるリスクもアップさせる。糖尿病の人は「歯の健康」も十分に意識したい。

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