最期の数週間において、薬で痛みを「緩和」すると、眠っている時間が長くなる。それでも、痛みを取らずに苦痛のあまり「その人らしさ」を失わせるよりも、よほどいいと山中医師は言う。
「痛みや苦しみを取ることで、最期の時間まで家族や介護職種の方とも『すてきな時間』を過ごすことができるようになるのです」
最期の時間を後悔なく過ごすには最期の時間までの時間軸を医師らに確認し、それを受け止める心の準備をすることが大切だ。
「このとき、『治す』という意識から、最期に向かって『すてきな時間を過ごす』という意識に切り替えることが重要です。少しでも痛みや苦しみから解放してあげる選択肢を家族が選ぶようにしてあげてください。点滴を連日することで肺を含めた体全体が水ぶくれして、ずっと痰がらみの状態を見ていることの方がつらい。少しずつ自然に枯れていきながらも穏やかな表情を見守ってあげることが大切なのです。それでも、痛みや苦しみがあるときは緩和の薬を使う。飲めないときには訪問看護さんに座薬を入れてもらったり、医師に持続の鎮静薬を入れてもらったりすることです」
家族と話し合いながら、きっちりした緩和医療をすれば、苦痛も後悔もない、「すてきな最期の時間」を笑顔で迎えることができるのである。