過去の記憶を思い出す頻度が増えると、記憶障害を引き起こすタンパク質が脳にたまりやすくなることを、理化学研究所の木村らの研究(2007年)は指摘しています。
年を重ねると、脳の嗅内野(きゅうないや)と呼ばれる部分に「タウ」というタンパク質が蓄積しやすくなります。このタウタンパク質によって、記憶障害が引き起こされると考えられていて、認知症とも関係しているといわれています。
木村らの研究チームは、マウスを使った実験で、過去の記憶が長時間にわたって脳を刺激したときに、タウタンパク質を蓄積しやすくさせる「GSK-3β」という酵素の働きが活発になることを突き止めました。タウタンパク質をどのように減少させればいいか──に関しては、まだ解明はされていません。ただし、新しいことを覚えたり、始めたりしない限り、どうしても脳は昔の記憶を思い出しがちです。
そのため定期的にメンテナンスとして新しい刺激を注入していくと、ストレス&記憶障害軽減につながるといえそうです。なんでも構いません。テレビのバラエティー番組を見て笑う、ドラマを見て感慨にふける、身近にある小さな刺激でも十分です。最も回避すべきは、ただただ思い出にふけってその日を暮らしていくような生活の過ごし方。これでは、タウタンパク質も蓄積しやすくなってしまいます。
たしかに、昔の思い出には美しいものもあるでしょう。そのため、「あのときは良かった」などと思いふけってしまうのかもしれません。
もし、あなたが美しい記憶、あるいは楽しかった記憶を思い出すなら、寝起きにするようにしてください。朝は“ストレスホルモン”として知られるコルチゾールの値が一日でもっとも高くなります。寝覚めが悪いのには理由があるわけです。
なぜ寝起きにおすすめなのか──。参考にしていただきたいのが、ケンブリッジ大学のアスケルンドらが行った「朝からストレスを軽減する」方法です。
研究(2019年)では、14歳の若者427人を対象に、目が覚めたとき、ネガティブな記憶とポジティブな記憶をそれぞれ合図とともに思い出してもらい、1分後にその反応を調べるという実験を6回ずつ行いました。そして1年間その追跡調査を行ったところ、ポジティブな記憶を思い出した被験者の多くがコルチゾールが減少し、長期的にも自身を否定的に捉えることが減っていたそうです。
そもそもこの研究は、うつ病対策を考慮して行われたのですが、天敵であるコルチゾールが高くなる朝に、前向きな人生経験を思い出すだけで、うつ病のリスクを軽減できたと報告されています。
朝起きたときこそ、過去の楽しかった記憶を思い出してみてください。カーテンを開けて朝日を浴びながら、ちょっと思い出にふけってみましょう。
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