今年4月、心臓の拍動による画像のブレを低減するCTシステムが富士フイルムヘルスケアから登場しました。画像処理の際に心臓の動きを推定し、冠動脈などに発生するブレを低減する技術が搭載されています。また、画像処理速度も従来の2倍向上しているそうです。
近年、こうした画像診断機器は急速に進歩しています。たとえば、「8K内視鏡」がそのひとつです。患者さんの体内に挿入したカメラの映像を外部のモニターで見ながら、同じように挿入した手術器具を用いて処置を行う内視鏡手術で使われます。内視鏡手術は患者さんの患部を大きく切開することなく、いくつかの小さな穴を開けるだけで済むため、負担の少ない低侵襲な手術として近年は大きく発展し、広く浸透しています。
8K内視鏡はそうした手術における新たな武器として期待できるといえるでしょう。
1950年に内視鏡の前身である胃カメラが実用化されて以来、画像の精細度は日進月歩で向上してきました。数年前、従来のフルハイビジョン内視鏡(1920×1080画素)が4K内視鏡(3840×2160画素)に進化し、さらにいまは8K内視鏡(7680×4320画素)となって、フルハイビジョンの16倍にあたる超高精細画像に到達しているのです。
実際に使用してみると、4Kと8Kでは相当な違いがあります。人間の視力で換算すると、4Kは2.0程度、8Kは4.3程度に相当するといいますから、8Kは人間の肉眼をはるかに超える映像を得られます。
手術の際、目的の箇所に焦点を合わせてしっかり見ている時は、4Kも8Kも解像度はそれほど変わらない感覚です。しかし、4Kでは焦点を合わせている箇所の周辺は外側にいけばいくほどぼやけていくのに対し、8Kではそのぼやけがまったくありません。焦点を合わせている箇所以外まですべて詳細に見えるため、切開すべき最適なポイント、切開してはいけない部分がはっきりわかります。大体このあたりでいいだろう……といったような曖昧な操作をしなくなるので処置の正確性が増し、安全性も高まり、手術の完成度の向上につながるのです。広い視野で肉眼以上の映像が見えているわけですから、医師にとっては手術そのものが怖くなくなる感覚があるでしょう。
また、モニターだけで患部の超高精細な画像を確認できて、処置している箇所を自分でのぞきこまなくても済むので、一定の姿勢で手術を進めることができます。姿勢の変化が少ない分、手術そのものが楽になる印象です。
■わずかな「ズレ」が課題
ただ、8K内視鏡にはいくつか課題があるのも事実です。まずは、画像処理にわずかな遅延が生じることです。体内に挿入したカメラで撮影した画像データは、外部のモニターに転送されます。その際、画像が構築されるまでの時間にほんの少しだけズレがあるのです。
実際に操作している感覚と、目にする映像の間に約0.03秒を超える遅延があると、われわれの脳は「なんかズレているぞ」と認識するといわれています。8K画像はデータ量が非常に大きいので、転送して構築されるまでにはどうしても時間がかかります。内視鏡手術では、オンタイムで体内の映像をモニターに映しながら処置していくので、ズレがあるとリスクが生じます。ですから、撮影されたデータを転送して画像を正確に構築するまでの時間をどれだけ早めることができるかが非常に重要です。8K内視鏡でもそうしたズレを限りなく小さくして、オンタイムで画像を転送できるようになれば、より使いやすくなるでしょう。
また、8K内視鏡で得られた画像データを外部の記憶媒体に保存する場合、ものすごく大きな容量が必要になります。そのため、できる限り画質を落とさないように圧縮するエンコーダーといわれるソフトをより向上させたタイプの開発が求められます。
さらに、8K内視鏡は手元のカメラ本体がまだ大きく重いので、小型化が望まれます。開発当初の2002年ごろは80キロだったカメラ本体は、それから5キロ、2.5キロと小型化・軽量化が進み、いまはパソコンを操作するマウス程度の大きさで、重さは370グラムほどまで軽量化されていますが、より操作性を向上させるにはさらなる小型化・軽量化が必要です。
21世紀における医療の進歩はブラウン管時代から高度に進化した映像の支援が支えてきました。今や高精細かつ高速度転送を備えた8K映像支援技術は人間の扱う最高領域を確立したと言えるでしょう。つまり内視鏡手術において、超高精細画像を得られる8K内視鏡は理想的な装置なのです。現時点の4Kから8Kへ移行していくことで、診断ではわずかな異常をAIが判定し、外科治療では危険領域への操作に早期警告を発するロボットや内視鏡支援の治療が発展していくでしょう。みなさんが医療機関を検索する際に8K医療というキーワードが当たり前になる日は近いと考えます。
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