認知症治療の第一人者が教える 元気な脳で天寿を全う

酒を飲む人、少し飲む人、飲まない人…認知症になりにくいのは?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 コロナで静かになっていた飲食店街も、最近賑やかさを取り戻していますね。今年こそは忘年会を、と思っている人もいるのではないでしょうか。そんな気持ちに水を差すわけではないですが、アルコールと認知症について取り上げたいと思います。

「人生取るか、酒取るか。これで10年後が全然違う」──。外来で私がよく口にする言葉です。体に害を及ぼすものとしてよくたばこが取り上げられますが、脳に限って言うと、アルコールはたばこより害。

 たばこはがん、心臓病や脳卒中などの循環器疾患、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)をはじめとする呼吸器疾患のリスクを上げます。喫煙者は認知症になりやすいといわれるのは、たばこに含まれる有害物質が血管を傷つけ、生活習慣病を悪化させるから。脳に間接的に悪影響を与えるのがたばこです。

 一方、アルコールはダイレクトに脳に影響します。精神活動を活発にする大切な物質として、アセチルコリンがあります。アルコールはアセチルコリンの働きを低下させ、記憶系を障害するという結果が動物実験で出ています。

 副次的な影響も見逃せません。「コロナで酒類提供の自粛要請が出された期間、自然とアルコール摂取量が減り、気がついたらやせていた。ところがまた『夜の会合』が増えてきて、それに伴い体重が増えた」という人もいるのでは? それは、アルコールのカロリーうんぬんというより、アルコールと一緒に取る食事にあります。

 鶏の唐揚げやメンチカツなど、ビールに合いますよね。薄味よりもコッテリ系の方がアルコールとの相性がいい。ポテトチップスなどのスナック菓子にも、つい手が出てしまう。

 ご飯、味噌汁、おかずといったメニューなら、ゆっくり食べても30分ほどで終わってしまいますが、お酒を味わいながらだと、下手したら何時間も飲んで食べて、となる。必然的に、飲まない場合より、塩分、脂肪、糖分の摂取量が増えてしまいます。栄養バランスも偏りがちです。

「酒を飲むときはそれほど食べられない」という人もいます。大量飲酒は消化器系の働きを鈍らせるからです。しかし酔いが覚めてくると空腹を覚え、深夜にラーメン屋に行ってしまう……。

 アルコールを日常的に摂取する生活は、食生活の乱れにつながり、肥満、あらゆる生活習慣病のリスクを高めます。偏った食生活は、ビタミン、ミネラルの不足を招きます。その結果、副次的に脳へ影響を与えるのです。

■物忘れが気になり始めたらまずは酒量を減らす

 アルコールは睡眠の質も悪化させます。寝つきこそいいものの、アルコールの入眠作用は数時間で切れ、そのあとは、アルコールの代謝物質アセトアルデヒドの覚醒作用で深い眠りが減り、浅い眠りが増えます。

 また、アルコールは利尿作用があるので、夜間に尿量の多い状態「夜間多尿」を招きます。睡眠の質の低下は、認知症を起こしやすくすることは研究で明らかになっています。

 アメリカで行われた大規模研究で、酒を飲む60歳と飲まない60歳の脳の萎縮度合いを調べました。つまりは、認知症のリスクの程度を比較したのです。

 すると、萎縮が少ないのは次の順番でした。

1位…酒を飲まない人
2位…少量だけ飲む人
3位…大量に飲んでいたがやめた人
4位…大量に飲んでいる人

 アルコールの害についてこれまであまり言われてこなかったのは、アルコールが体に与える影響が、たばこと肺がんの関係ほどストレートではなく、医学的なエビデンスが弱かったから。

 少量飲酒は認知症予防に有効だというデータが過去には発表されてもいることから、「適量ならいいんでしょ」と考えている人もいるかもしれませんね。

 しかし私は、少なくとも物忘れが気になっているようなら、お酒の量をまずは減らすことをおすすめします。今後の人生を決めるのは、あなたです。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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