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ペットを飼うと認知症の予防になるのは本当?その理由とは

写真はイメージ
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 アニマルセラピーは、動物と触れ合うことによってストレスの緩和や精神的、身体的な活動の機能向上が促され、笑顔などの表情の変化や発話回数の増加につながるといわれています。そのため、認知症予防への効果を期待し、高齢者施設で取り入れられるケースも増えています。アニマルセラピーと認知症に関連する論文は多く、たとえば「認知症高齢者に対するイヌによる動物介在療法の有用性」(2008年、川崎医療福祉学会誌)では、《イヌにつられて行動を起こすことにより、活動量が増し、日常生活の自立度や改善につながる。精神性ではストレスの緩和やうつ状態の改善につながる》といった報告が出されています。

 ペットを飼っている人は誰もが認知症にならないわけではありませんが、犬をはじめ、ペットを介して得られるストレスの軽減は明らかで、認知症予防に一定の効果はあると考えます。

 認知症の初期段階では、認知機能の低下を自覚して情緒不安定になったり、周囲に無関心になっていく傾向があります。ペットとの触れ合いは、それによる抑うつ状態を改善する効果があります。

 動物に愛情を注ぐ行為は、脳に神経伝達物質であるドーパミンを大量に分泌します。ドーパミンの作用により人間は多幸感を得たり、行動への意欲を高めます。またドーパミンによって脳は全身の筋肉に運動の命令を出します。

 さらに、ペットの世話はある種のストレスがかかりますが、それも認知症予防になります。定年退職後に認知症の発症が多いのは、自分だけの時間軸で生活していることも関係しています。人間の体内時計は25時間で、生活習慣の乱れとともにどんどんズレていきます。「毎日が日曜日」になってしまえば昼夜逆転し、時間や曜日の感覚も鈍くなる。いわゆる「見当識障害」が起こります。犬を決まった時間に散歩させて、エサをあげる、このルーティンがあるだけで、認知症の進行は抑えられると考えられます。

 犬は飼い主に従順に懐いてくれるのも大きなポイントでしょう。かわいがってくれる人間に対し、反論せずに尻尾を振ってくっついてきたり、愛情を見せてくれます。人間は承認欲求を欲していて、満たされるとドーパミンを放出しますから、その点でも、認知症予防にアニマルセラピーがある程度効果的といえるのです。

▽内野勝行(うちの・かつゆき) 帝京大学医学部医学科卒業後、同大学医学部付属病院神経内科非常勤医などを経て、金町駅前脳神経内科院長。厚生労働省認定認知症サポート医、緩和ケア認定医。著書に「記憶力アップ×集中力アップ×認知症予防 1日1杯 脳のおそうじスープ」がある。

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