高齢者の正しいクスリとの付き合い方

クスリの影響で唾液が出なくなると“食べる”に悪影響が生じる

写真はイメージ
写真はイメージ

 深く考えたことがないかもしれませんが、「唾液」の役割は実に多様です。そして、唾液は“食べる”うえで極めて重要な役割を持っています。

 唾液にはアミラーゼという酵素が含まれています。アミラーゼは炭水化物を消化する働きがあるので、唾液は「消化」の役割があります。また、口の中に潤いを与えることで、清潔を保つというのも唾液の重要な役割です。唾液がないと口の中の汚れが洗い流せないというと、想像しやすいかと思います。

 唾液は“もぐもぐ(咀嚼=そしゃく)”と“ごっくん”に必要不可欠です。これまで、口腔期では食べものを咀嚼しながら舌の上でお団子=食塊を作り出しているとお話ししましたが、唾液はその際に「つなぎ」の役割を担っています。言い換えると、唾液がないと食塊が作り出せないということになります。食塊が作り出せないということは「のみ込めない」と同じ意味ですから、つなぎとしての唾液の重要性がおわかりいただけると思います。

 そして、仮になんとか食塊が作り出せたとしても、次にそれを喉に送り出さなければいけません。唾液はその時に「潤滑」の役割も持っています。パサパサの塊と潤った塊、どちらがつるっと滑って送り出しやすいかを想像してみてください。唾液が持つ「つなぎ」と「潤滑」の役割は、“食べる”ために必要な力のうち「嚥下(えんげ)」にとってとても重要なのです。

 また、意外に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、唾液は「味覚」にとっても重要です。唾液がないと味覚は失われてしまいます。われわれの舌の表面には味を感じ取る細胞が存在しています。ここに食べ物が到達すれば味を感じられると思われるかもしれませんが、実際はそれだけでは味はまったく感じられません。食べ物と唾液が同時に到達することで、食べ物の味の成分が唾液に溶け出してきて、それが細胞に到達することで初めて味を感じることができるのです。

 つまり、飲んだクスリの影響で唾液が出なくなると、味そのものを感じられなくなってしまいます。前回、味覚障害を起こすと先行期(認知期)と準備期に悪影響があるとお話ししましたが、唾液が出なくなると、それと同様のことを起こしてしまうのです。

 高齢になると、そもそも唾液を出す力も弱くなります。そのうえクスリの影響でさらに唾液が出なくなってしまうと、いかに“食べる”に悪影響を与えるかがおわかりいただけたと思います。

 次回は、“食べる”において、私の中で一番注意が必要だと考えているクスリについてお話しします。

東敬一朗

東敬一朗

1976年、愛知県生まれの三重県育ち。摂南大学卒。金沢大学大学院修了。薬学博士。日本リハビリテーション栄養学会理事。日本臨床栄養代謝学会代議員。栄養サポートチーム専門療法士、老年薬学指導薬剤師など、栄養や高齢者の薬物療法に関する専門資格を取得。

関連記事