がんと向き合い生きていく

病理学教授の講義は命の尊さと医師のあり方を教えてくれた

佐々木常雄氏
佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 古いお話になりますが、この記録は1967年4月13日に行われた佐藤光永教授による病理学講義の初回の内容です。 当時、医学部3年生だった私は感激して必死に筆記したものです(これは私のノートであり、間違っている箇所があれば私の責任です)。

 佐藤先生は、先に「病理学とは、病気の本態を追求、究明する学問」と話されました。以下、私のノートの記載を抜粋します。

 ◇  ◇  ◇

自然は流転して善悪はない。人は自然の中に生きて善悪を考える。
是は矛盾か 然らずか、否か。
吾 迷い苦しみて、なお人生を愛す。

人間が自然のままなら、弱肉強食である。
人間には感情あり、共栄共存である。
弱いものも生きる権利がある。
ここに人間がある。
東洋人→ 自然と共に……矛盾を感じる。
西洋人→ 自然を征服。

・生きる信条
万有一切宇宙三界唯一無二。
たとえば、肝臓であれば肝臓にたくさんの細胞がある。しかし、これひとつひとつの細胞は世界に、過去にただひとつしかない。あなたもひとつしかない。私もひとつしかない。かけがえのないものである。
唯我独尊は釈迦のみに非ず、吾も亦然り。
神の子は、基督のみに非ず、汝も亦然り。
あらゆるものは神の子である。
キリストさんでも植物は作れない。
キリスト教? 汝、罪の子では世界平和でない。ひとりひとりが大切。
精子の数、1ミリリットルに1億個、卵子との出会い……神技 我は神の子 無生物も神の子。

・地上に人身を受けては、有形無形の命の糧に感謝を捧げる
生きるために、他の生物を殺す。
生命あるもの 生きるのが本筋。
お釈迦さんは四つ足を食わない。
乳の中に細菌のあるのを知らぬ。
人間に近い、サルを可愛がるか、ごまをする犬を可愛がるか、どこで区切りをつけても分からぬ。せめて人間間で仲良くしよう。
しかし、他の生物を殺している↓感謝。
人間を生み出したもの→感謝。
感謝して生きていけばこころ楽しい。

・人としての自愛他愛を善となし
植物を愛し、鳥を愛し→食べて、生きて→感謝で我慢してもらう。
以って、千慮万行の基となせば、平和、幸福、理想創造への道は、自ら開かれんものと信ず。
是、吾が生きるの源なり。
昔は病さえ治せばよかった だんだん弱い人もたすけて、一緒に生きようとなった。
医者→人間愛に生きないと社会からの期待に背く。人の幸福を 自分、他人願う。
医学は治療学ではなく、人間学である。
人間 なんとかして自分をよくみせようとする。自分がこれだけの人間だというのを見せてしまう、自分が楽。
今、知らぬを恥ずかしがらず。
本立って道生ず。
医者になる信念を立てておかぬといかん。
自分はなぜ医学の道を行くのか。
人を愛するため、平和のための医学。
愛すること……。

 ◇  ◇  ◇

 命の尊さ、医学と医師のあり方を説いた佐藤先生の言葉は、いまも心に残っています。

 私は、学生時代のノートはほとんど捨ててしまいましたが、このノートは今も大切に保管しています。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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