老親・家族 在宅での看取り方

「自宅だから、自由に動ける」 諦めていたことにもチャレンジ

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療を開始することになったきっかけや事情は、みなさんそれぞれ違います。一方で、一様に戸惑われることもあります。そのひとつが、「自分で選択する」ということ。

 病院では、いわば病院のルールにのっとって生活がまわりますが、自宅での場合、患者さんの嗜好ややり方を反映できます。別の言い方をするなら、患者さん自らがどうしたいかを考え、私たち在宅医療チームと一丸となって、望む「カタチ」をつくり上げていくということになります。

 入院中は病院の医師や看護師の指示に従い、食事や投薬の時間も決められ、すべてにおいて管理されることが当たり前と受け入れてきた患者さんならば、なおさらそのギャップを感じることでしょう。

 しかも健康だった時とは違い、相対的にADL(日常生活動作)のレベルが落ちている中で、自宅での日常を取り戻すことは難しく、「自分がやりたいこと」といっても、体のレベルに沿ったものになります。

 そんな時、当院では医師や診療パートナーが、患者さんの本音をできるだけくみ取り、選択肢を多く用意しながら、患者さん自身や家族が意思決定する過程をサポートするように努めています。一歩踏み込み、患者さんはなぜそれを希望するのかという観点でじっくり傾聴して、その時々の患者さんの思いや価値観、嗜好を理解するように努めています。

 自分の選択の積み重ねで人生が出来上がっているとするなら、在宅医療を開始することはその患者さんにとって人生の縮図を体験することなのかもしれません。

 私たちの診療所で在宅医療を始められた67歳の1人暮らしの女性。子宮の内膜に発生する子宮体がんの手術を受けており、さらに短腸症候群を抱えていました。短腸症候群とは、小腸の大量切除により小腸の吸収機能が低下することで、栄養や水分の欠乏に伴い、主に下痢、脱水、体重減少などの症状が見られます。

「こんにちは、お元気そうですね」(私)

「そう言っていただいてありがたいです」(患者)

「子宮の手術したのっていつですか?」(私)

「2000年の8月です。その次の年に腸閉塞になったんです。開腹手術もしています。使える腸が1メートルもないかもって病院の先生に言われて。将来的には口から食べるのも大変になるかもって」(患者)

 初対面の時から自分の病状を私に説明するその方からは、不思議と明るさと希望が伝わってきました。

「短腸症候群の新薬を試してみましょうって病院で言われているので、それで効くなら、点滴減らしていくのもいいかなと思うんですよね」(患者)

「点滴は1~2週間ご自身で練習していただいて、自信がついてから(減らしていくことを)考えていくっていうのもいいかなと思います」(私)

「昼間は身軽になって移動したいんです。諦めていたことができるんだなって、いろんな可能性があるんだなって思います」(患者)

 力強く進んでいこうとしているこの方にとって、在宅医療とは自分のチャレンジするステージなのだと思ったのでした。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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