データが語る 令和高齢者の実像

実質労働時間は500時間超減少 中高年の健康長寿は約束されている?

適度な運動も健康長寿につながる
適度な運動も健康長寿につながる

 健康に良いと分かっていても、具体的な根拠が少なく、効果がはっきりしないことが意外と多くあります。たとえば労働時間。「過労死」という言葉があるように、長時間労働が心臓や脳血管に悪いことはよく知られています。短いほうが健康には好ましいと、大抵の人が思っているはずですが、ではどのくらいかと言われると、ほとんど分かっていないのです。

 年間総労働時間(法定労働時間)は、正規雇用者で2080時間までとされています。また残業などが上限で360時間まで認められています。それに対する実際の労働時間(実労働時間)は、厚労省の統計によれば、1990年代以前から下がり続け、2019年で1669時間になりました。

 ただしこれは、非正規(パートタイム等を含む)を加えた数字です。正規労働者は、1990年代からずっと2000時間前後で推移してきました(2019年は1978時間)。とはいえ、以前はサービス残業が多かったし、会社が終われば上司に付き合わされたり、休日は接待などに駆り出されたりしたものです。最近はそういう表に出てこない労働が減ったため、だいぶ楽になった人も多いはずです。

 いま80代の人たちは、1960年代に社会に出ています。その当時の総労働時間は2300~2400時間でした。実際は、2500時間を超えていたことでしょう。不完全ながら週休2日制が普及し始めたのが1980年代、完全週休2日制は1990年代に入ってからです。しかしそんな時代を生きてきた人たちの多くは、いまも元気で、まだあと10年くらいは長生きしそうです。だとしたら、いま50代や60代の世代には、(科学的根拠は薄いですが)さらなる健康長寿が約束されていると思っていいのではないでしょうか。

 また近年は、余暇を運動に使う人が増えてきました。これも総労働時間が減ったからこそです。適度な運動が健康増進にいいのは言うまでもありません。ほどよく体を動かしている人は、さらに長生きできる可能性が高いわけです。

 世界に目を向けると、北欧諸国では週休3日が広まってきています。日本も将来はそうなるかもしれません。ただし、経済的な問題は脇に置くとしても、週休7日(完全失業)を望む人は少ないでしょうし、かえって健康を損ねてしまうかもしれません。ほどほどに働き続けられる社会が、望ましいわけです。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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