独白 愉快な“病人”たち

ユーチューバー辻トオルさん肺がんとの闘い「3カ月から半年前の発症でステージ4…驚きでした」

辻トオルさん(C)日刊ゲンダイ
辻トオルさん(ユーチューバー/61歳)=非小細胞肺がん

「肺がんの疑いが強い」と診断されたとき、すでに副腎と右肋骨にも転移がある状態で、「ステージ4」と告げられました。当時、自分はその意味がわからず「ステージ4って軽いのですか? 重いのですか?」と医師に聞きました。すると、「末期です」との答え。ただ、続けて「5年前までは5年生存率は10%でしたが、今はそんなことはありません。寛解を目指して頑張りましょう」と励まされました。「寛解」という言葉も知らなかったのでピンときませんでしたけど……。

 始まりは2021年の年明け。夜になると微熱が出る日が続きました。病院嫌いなので放置していたら、発熱に加えて右脇腹がチクチク痛むようになりました。その痛みが背中を回って左脇腹に移ってきた頃、数年前から不眠症で薬をもらっているクリニックで相談をしました。「神経痛だね」と言われ、漢方薬を処方されましたけど、それがまったく効かないので、市販の鎮痛剤を飲むようになったんです。用法を考えず、「痛くなったら飲む」を繰り返していたら、心配した今のパートナーが行きつけの病院に連れ出してくれました。

 そこで検査を受けたところ、「大きな病院で診てもらった方がいい」と言われ、後日、東京慈恵会医科大学付属病院の呼吸器内科を受診しました。MRIなどの検査の結果、ステージ4の肺がんの疑いとなったわけです。

 病名を確定するために口の中からカメラを入れて肺の組織を採取したのですが、これが苦しいのなんの。「苦しかったら手を挙げてくださいね」と言われたので何度も手を挙げたんですけど、「もうちょっと頑張ってくださいね」ってやめてくれませんでした(笑)。

 そんな苦しい思いをしたのに、結果、採取できず、「副腎から採りましょう」となって、後日、背中から針を刺して採取しました。

 数日後、肺がんの中でも症例の少ない「非小細胞肺がんのステージ4b」と確定されました。病院側からは「もう一段上の詳しい検査をしたい」と提案され、さらに2週間が経過……。なかなか治療にならなかったこの時期が一番不安でした。肺がんは進行が速いと聞いていたからです。現に「僕のがんはいつ発症したのでしょうか?」とたずねると、「3カ月から半年前の発症」とのこと。それでステージ4のbですから驚きです。

■現在も抗がん剤治療を続けている

 4月から点滴による抗がん剤治療を4回やりました。転移した副腎の腫瘍は小さくなったものの、肺のがんは大きくなってしまい、11月中旬から25回、通院で放射線治療をしました。最初は20回と言われたのですが、MAXで30回できると聞いたのと、一度放射線治療した部分は二度とできないとのことだったので、直談判して5回増やしてもらいました。できれば30回やりたかったんですけどね。

 でも、その副作用が今年6月、「左肺が縮む」という形で出ました。今は大丈夫ですけど、肺炎みたいに息苦しい日々が8月まで続きました。ついこの前は肺に水がたまって、背中から針を刺して150㏄抜いたばかりです。元気そうに見えますけど、調子は悪くなったり、持ち直したりを繰り返していて、なんとか日常を維持している感じです。

 現在も3週間に1回の抗がん剤治療を続けています。抗がん剤はもう3種類目で、今の病院ではこれ以上の薬がないので、今後は国立がん研究センターでの治療になりそうです。

 がんを告げられ、命が終わることをリアルに感じるようになりました。でも根がポジティブなもので、落ち込むより「時間がもったいない」と思ったのです。くよくよする時間があるなら、自分が楽しくなれるように時間を使った方がいいなと。それでユーチューブを始めました。趣味のバイクや船、音楽を中心に病気のことなども配信しています。同じように治療している人や今健康な人にも、何かを感じてもらえたらいいと思って……。

 初めは知り合いに手伝ってもらっていたのですが、「自分でやらなきゃダメだよ」と知人に言われ、今は自分で編集もやっています。やる気になれば、まだまだやれることはあるんだと学びました。これからチャレンジしたいのは音楽。他人のプロデュースはやってきたのに、自分のこととなると難しい。でも、曲作りや歌にも興味津々です。

 死ぬ直前まで夢を追いかけようと思っています。夢というと壮大なものを想像しがちですけれど、自分が思うに、小っちゃい夢をたくさん持っていた方がいいような気がします。「あの店のアレを食べに行こう」とか、「あの景色を見に行こう」でいい。ひとつひとつ実現できるとうれしいじゃないですか。

 食事も大きく変わりました。糖質カットの食生活を徹底しています。がんは糖質を栄養にすると聞いたので。気休めかもしれませんけど、自分ではいい効果があるような気がしています。

(聞き手=松永詠美子)

▽辻トオル(つじ・とおる) 1961年、東京都生まれ。23歳から人気アイドルやロックバンドのマネジャー、アーティストのプロモートなどを手掛けてきた。現在は「スキップコーポレーション」(貸しスタジオ経営)の代表取締役。ユーチューブ「辻トオルのジーツーちゃんねる!!」では、趣味のバイクや船舶、音楽、病気の経過などを発信している。

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