諦めないがん治療には「ハイパーサーミア療法」 負担が軽く高い効果

藤木院長(本人提供)
藤木院長(本人提供)

 がんはさまざまな治療法を適切に選択しコントロールする病気になりつつある。そんな考え方が当たり前の時代になってきた。全国がんセンター協議会の生存率共同調査(2020年)では相対5年生存率は70%に近づいており、「がんは治る」と考える人も増えている。それを可能にしているのが、がん標準治療(手術、抗がん剤、放射線)の効果を高める医療技術の進展だ。とくに全国のがん治療専門医が注目しているのが「がん温熱療法(ハイパーサーミア療法)」である。04年に富山県内で初めてこの治療法をスタート、数多くのがん患者に生きる喜びを与え続けている、藤木病院の藤木龍輔院長に話を聞いた。

 藤木病院は世界有数の大規模山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」の出発点である富山県立山町にある。一般病床60床の在宅支援病院でありながら、人口2万5000人の町の地域医療を担う医療機関として救急外来受け付けも行い、脳梗塞や脳血管障害の治療にも尽力している。

 そんな藤木病院ではがん治療で独自の集学的治療で高い効果を上げているという。

「当院はがんの標準治療である手術や放射線治療は行いませんが、それを行う公立病院と連携して、抗がん剤治療、高気圧酸素療法、ハイパーサーミア療法など複数の治療法を併用することで標準治療の効果を高めることに成功しています」

 実際、余命3カ月と宣告された肺がん患者は、藤木病院での治療により半年以上経過した現在も健在。肺の腫瘍は縮小し、腸閉塞が改善して食事が取れるようになり、快方に向かっている。

 50代半ばの女性は他の病院で「余命半年ない」と言われたが1年半生き永らえ、その間、家族で海外旅行を楽しんだという。

 そもそもなぜ地方の在宅支援病院ががん治療に取り組んでいるのか?

「胃がんの年間死亡者数は私が消化器外科医になった40年前と大きく変わりません。しかも腹膜播種や肝転移の治療の困難さも同じ。これを改善したい。その思いからがんの低侵襲治療を始めたのです」

 最初に手をつけたのが脳梗塞治療用の高気圧酸素療法を腹膜播種に使うことだった。

「がん腹膜播種の患者さんは腸閉塞になりやすく、体からガスが抜けずに苦しみます。高気圧酸素療法は腸閉塞の適用があり、体内のガスを減らす効果がある。その併用は大きなメリットです。しかも、高圧酸素を使うと血液に投与した抗がん剤が腹膜の外に出てくるため、その効果がより高くなります。それは抗がん剤の量を減らすことにつながり、その副作用の苦しみから患者さんを解き放つことができるのです」

 とはいえ、それだけではがん患者を救うことにはならない。そこで出合ったのがハイパーサーミア療法だったという。

「偶然、がんの論文でその存在を知り、これだ、と思いました。ハイパーサーミア療法は、がんの固まりが42.5度以上の熱に弱いという性質を利用してがんを治療します。具体的には体の外側からがん細胞に向かって高周波電流を流してがん細胞を加温し、死滅させる。この治療法が優れているのはがん細胞だけ選択的に攻撃し、正常細胞へのダメージはあってもごくわずか、という点です。正常細胞は熱が加わると周囲の血管が拡張して血流が増えて熱を逃がしますが、がん細胞の周囲の血管は急ごしらえの新生血管なので拡張ができずに熱がこもってしまう。そのため正常細胞より早く壊れるのです」

■抗がん剤や放射線治療の効果も高める

 これなら、体力の弱い高齢者や女性でも受けられる。しかも、多くのがん種で治療可能だ。さらにこの治療法は抗がん剤や放射線治療の効果をアップさせる働きもある。

「加温すると細胞を覆う細胞膜の透過性を高めるため、がん細胞内への抗がん剤の取り込み量が増えて抗がん剤の効果を高めます。また、抗がん剤で攻撃されたがん細胞のDNA回復の動きを阻止する働きもあります」

 放射線治療後のがん細胞は、そのダメージを回復しようとするが、加温でその修復が阻害される。とくに42度以上の加温は放射線増感作用が顕著であることが知られている。うれしいことにハイパーサーミア療法は治療器の上で患者は40~50分横たわるだけでよく、治療費も公的保険が利くため安い。しかも、何度でも治療が可能。諦めないがん治療にはピッタリだ。

 今後は、高度先進医療などを行う公的病院と連携して地域でがん患者を支える体制作りを進めたい、という藤木院長。12月9日午後7時から「サンシップとやま」(富山市)で「低侵襲がん治療の試みとがん予防について」という演題の一般向け講演を行う予定だという。ハイパーサーミアを加えた新たな集学的治療法が日本のがん治療の標準となる日もそう遠いことではないかもしれない。

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