「電子処方箋」10月末からの先行運用でクリアすべき課題が見えてきた

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 厚労省は来年1月から「電子処方箋」の運用開始を目指している。医療機関から薬を出してもらう際に必要な処方箋をこれまでの紙からデジタルデータに変更し、オンラインで運用するシステムだ。10月末からは山形県酒田、福島県須賀川、千葉県旭、広島県安佐の4地域で先行運用が始まり、検証が重ねられている。現時点での課題はあるのか。先行運用がスタートしている地域の医療機関に勤務する管理薬剤師に聞いた。

 電子処方箋による薬の処方は以下のような手順になる。

 診察した医師がクラウド上の「電子処方箋管理サービス」にデータを登録すると、専用の引き換え番号が交付される。医師から引き換え番号の通知を受けた患者は、薬局へ出向いて引き換え番号を提示し、健康保険証(もしくはマイナンバーカード)による本人確認を行って、調剤された薬を受け取る。

 電子処方箋では、それぞれの患者の薬剤情報がクラウド上に保管・蓄積されていく。医師や薬剤師は、複数の医療機関と薬局をまたいで患者が利用した全国の医療機関と薬局の過去3年分の薬剤情報を参照できるようになる。そのため、複数の医療機関から何種類も薬が処方されている場合でも、重複投薬や副作用リスクがある飲み合わせなどをチェックできる。

 また、引っ越しなどでかかりつけの医療機関や薬局がかわっても、クラウド上で管理されている薬剤情報によって、それまでの治療をスムーズに引き継げる。さらにオンライン診療やオンライン服薬指導がもっと普及すれば、患者は自宅でオンライン診療を受診して電子処方箋を出してもらい、薬局のオンライン服薬指導を受けて、自宅に薬が配送されるサービスも進む可能性が高い。患者はより質の高い医療を受けられ、利便性も向上すると期待されている。

 先行運用が始まっている地域によって違いはあるが、現段階では、患者に対する運用はまだ実施されておらず、まずは処方箋を電子化するためのシステム作りが行われているという。

「その過程でいくつか課題が挙がっています。電子処方箋では、それぞれの薬に付与されている特定のコードによって、薬の種類を認識します。同じ薬でも形状や容量などが違うものは異なるコードで管理されていますが、バニラや抹茶など『味』が7種類ある経口の経腸栄養剤では、すべてが同一のコードで管理されていました。そのため、電子処方箋上では、その患者さんにはどの味の栄養剤を処方するのかがわかりません。今後、同じようなケースの薬が出てくる可能性もあります。処方箋は書式が決まっていて改編できないので、医師のコメントを付与する欄を設けるなどして対応する形になるでしょう」

■「検査値」はより良い薬の処方にとって重要

 さらに大きな課題も見つかっている。近年、患者の「臨床検査値」を記載した処方箋が普及し始めていたが、電子処方箋には検査値を記載できず、薬局側で確認することができないケースが発覚したという。

「患者さんに対して適切で安全な薬物治療を提供するために、薬剤師による検査値の確認はとても重要で、処方箋に検査値を記載する医療機関が増えています。腎機能、肝機能、白血球数、ヘモグロビン量、炎症反応、薬剤の血中濃度といった血液検査の数値など、その患者さんが受けた検査のデータを確認しながら、薬の量や種類を調整するのです。たとえば腎機能が悪化すると、血液中に入った薬の成分を体外に排出することが不十分になり、効きすぎてしまったり、副作用が出るリスクが高くなります。その場合、薬の量を減らしたり、種類を変更することもあります」

 ほかにも抗がん剤の中には、体表面積に応じて処方量が決められているものがあり、患者の身長と体重の数値から計算されている。また、抗がん剤治療のクールが進むごとに薬が効きすぎてしまうと白血球の数値が落ちていき、そのまま抗がん剤を続けると感染症にかかりやすくなって命を落とす危険がある。実際、白血球の数値が落ちたため抗がん剤治療を延期したり、中止するケースもあるという。

「血液をサラサラにする薬を使っている場合は、薬剤の血中濃度をチェックします。血液中に多く薬の成分が残っていると、出血しやすくなって転倒などで大きな事故につながるリスクがあります。ですから、血中濃度に応じて処方量を変更するのです。病院薬剤師では、患者さんの検査値に応じて薬の量を調節する作業は日常といえます」

 電子処方箋では検査値が記載できないとなれば、進みつつあった“質の高い薬剤処方”が後退しかねない。これを受け、先行運用エリアの千葉県旭では、電子処方箋でも検査値が確認できるようなプログラムを開発しているという。

 電子処方箋の本格的な運用がスタートするまで、さらなるブラッシュアップを期待したい。

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