認知症で最も多いアルツハイマー型認知症は、生活を健康的に改善することで、発症リスクを下げられます。また早期発見、早期対処で認知機能の低下スピードを緩やかにできます。ただ、現在の医療では完全に予防するのは困難です。
一方、アルツハイマー型認知症に次いで多い血管性認知症は、場合によっては1次予防(発症させない)が可能です。ほかの認知症とは、そこが異なります。
血管性認知症とは、脳梗塞や脳出血など脳血管障害によってその血管が血液を供給している部位の神経細胞がダメージを受け、発症する認知症です。
脳血管障害は危険因子が明らかになっています。それは、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、心房細動、喫煙など。つまり、危険因子をひとつでも減らすことが、脳血管障害の予防になりますし、ひいては血管性認知症の予防になるのです。
高血圧など危険因子となる病気がある人は、それらの治療が必須ですし、減塩、減脂肪、禁煙といった生活習慣の改善も有効です。かつて日本では血管性認知症が認知症の原因疾患の代表でしたが、その後大きく減ったのは、減塩の重要性が盛んに言われるようになったことが関係しています。
3年前に結婚した男性(50)は、それまでの外食率ほぼ100%の生活から、「外食は記念日だけ」の生活に大転換しました。
夫婦共に健康で長生きしたいからと食事内容に気をつけたところ、1年間で体重が16キロ落ちて標準体重になり、かなり高かった血圧、血糖値、コレステロール、中性脂肪が軒並み低下。基準値を余裕で下回るようになったそうです。
この男性が結婚前の生活を続けていたら将来、脳血管障害、そして、その後の血管性認知症を起こしていても不思議ではなかったでしょう。いいタイミングでの方向転換だったと言えます。
■将来の血管性認知症リスクを減らす
こんなケースもあります。脳ドックで「無症候性脳梗塞」と診断された60代男性。特に何の症状もなかった男性が脳ドックを受けたのは、無症候性脳梗塞の危険因子についての記事を読み心配になっていたタイミングで、同級生の脳梗塞の知らせが届いたからでした。
大きな脳梗塞ができると片側の手足のまひ、意識障害、言語障害などの症状が起こるのですが、無症候性脳梗塞は脳の細い血管が詰まって起こるため、脳の組織に影響があまり出ず、自覚症状もありません。それゆえに「隠れ脳梗塞」とも呼ばれています。
しかし放置していいわけではなく、小さな脳梗塞が増えることで血管性認知症につながる可能性があります。また、本格的な脳梗塞や脳出血を招く危険があります。
無症候性脳梗塞の危険因子は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、過度の飲酒、運動不足、喫煙、肥満、ストレス、家族歴など。
中でも高血圧は関連が高いといわれています。60年以上にわたり生活習慣の疫学調査を行っている久山町研究では、脳出血を除く全剖検例の12.9%に無症候性脳梗塞が認められ、その86.1%が高血圧が長く続いたために脳の中を走る穿通枝という細い血管が詰まったタイプの無症候性脳梗塞(ラクナ梗塞)でした。
無症候性脳梗塞の治療は、危険因子の管理が最も重要。状態によっては血液をサラサラにする薬を使うこともあります。
男性は、すでに高血圧の治療を受けていましたが、たばこだけはやめられず、主治医から何度も注意を受けていました。
しかし脳ドックで無症候性脳梗塞が見つかったことを機に、禁煙外来を受診し、禁煙に踏み切ったそうです。この男性の場合も、無症候性脳梗塞の発見が将来の血管性認知症リスク低下につながったと言えるでしょう。