データが語る 令和高齢者の実像

1位は神奈川「長時間通勤」の健康被害はほとんど分かっていない

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 総務省によれば、往復の通勤・通学時間が長い県(2016年)は、1位が神奈川県(1時間45分)、2位が千葉県(1時間42分)、3位が埼玉県(1時間36分)。以下、東京都、奈良県、大阪府、兵庫県、京都府の順になっています。これには10歳以上の子どもたちの通学時間も含まれています。サラリーマンに限れば、もっと長時間を費やしているはずです。

 長時間通勤が健康に悪いことは、誰もが直観的に分かるはずです。ところが具体的なエビデンスを示せと言われると、実はほとんど見つかりません。欧米の研究事例はあるのですが、通勤形態が大きく異なっているなど、日本の実情に合わないものばかりです。

 国内で行われた数少ない研究結果をまとめると、長時間通勤の人には、疲労感や倦怠(けんたい)感を訴える人が多く、とくに肩こりや腰痛に悪影響を及ぼしている可能性がある、また精神的ストレスを感じている人が多い、という当たり前の結論になります。あとは自動車通勤の人は太りやすいといった程度です。

 日本では、通勤時間は労働問題の一部と考えられているため、医学や健康科学の対象になりにくいという実情があります。数少ない論文も、労働関係の雑誌に掲載されており、医学・健康系の雑誌にはほとんど見当たりません。そのためテレビの健康番組や、新聞の健康欄に取り上げられることもなく、放置されたままになっているのです。

 そんな状況に風穴をあけたのが、新型コロナでした。リモートワークに切り替えたり、通勤時間帯をずらす会社が一気に増えました。内閣府の調査では、首都圏のサラリーマンの53.2%、大阪・名古屋圏の38.5%が、通勤時間が減少したと答えています。

 大手マスコミは「通勤がなくなったので運動不足で太った」といった話題ばかりを取り上げ、通勤がむしろ健康維持に役立っているかのような報道を繰り返していました。長時間通勤によるマイナスの側面が、あまり理解されていない証左と言えるでしょう。

 しかしリモートワークになったおかげで、肉体的にも精神的にもかなり楽になった人は大勢いるのではないでしょうか。多少太ったとしても、新たに運動習慣を始めるいいきっかけです。リモートワークと長時間通勤で、どちらが健康的かという問題は、今後、科学的に明らかになっていくことでしょう。

永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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