敗血症の人の「目」はどうなるのか? 糖尿病、がんなどリスクの高い人は要注意

敗血症では目にも異変が…
敗血症では目にも異変が…

 俳優でタレントの渡辺徹さん(享年61)が先月28日、敗血症のため亡くなった。同20日に細菌性胃腸炎と診断され入院。その後、敗血症と診断され治療したが回復しなかった。あまりに突然の訃報に多くの人が驚いたが、敗血症はそれだけ急に病状が進む深刻な病気だということだ。注意したいのは敗血症では目にも異変が起きること。人によっては眼症状を見て敗血症を早く見つけられるかもしれない。「自由が丘清澤眼科」(東京・目黒区)の清澤源弘院長に「敗血症の目の症状」を聞いた。

 敗血症は細菌、真菌やウイルスなどが血液中に回り、心臓、肺、腎臓などの臓器が障害され生じる危険な病態のこと。体内の免疫も関与する。糖尿病などの慢性疾患や、がんなどの基礎疾患がある人、高齢者や乳幼児などはリスクが高いのだが、多くの人には縁遠い病気だと思われがちだ。

 千葉大学医学部の救急集中治療医学グループらが2021年9月に発表した「ビッグデータが明らかにする日本の敗血症の実態」によると、2010年から17年までに日本では成人約5000万人が入院し、200万人(約4%)が敗血症を発症。うち36万人が死亡した。敗血症患者の年齢の中央値は76歳で、主な併存疾患は悪性腫瘍(約35%)、高血圧(約26%)、糖尿病(約22%)などで、患者数は年々増加しているという。

 感染源は呼吸器感染症が約41%と最多で、臓器障害としては呼吸不全が17年には約82%を占めた。入院期間の中央値は約30日で院内死亡率は約20%。入院患者全体に対する敗血症患者の年間割合は10年の約3%(約11万人)から17年の約5%(約36万人)に増加している。敗血症が原因で死亡する人数も17年は約6万人と、10年から約2.3倍。ただし、敗血症患者の死亡率は10年の約25%から17年の約18%へと減少しているという。

 敗血症の原因となる代表的な細菌は連鎖球菌、ブドウ球菌、大腸菌、緑膿菌など。こうした細菌に感染すると、まず皮膚が化膿したり、肺炎や胃腸炎、大腸炎などの感染症を引き起こす。その後、免疫力の弱い人では血液に菌が入って敗血症が起こりやすい。

 敗血症は細菌以外にもカンジダなどのカビ(真菌)や、サイトメガロウイルスなども原因となるケースがある。

「つまり、敗血症は誰もがかかる身近な病原体で起こるわけで、敗血症のリスクのある人はその症状を知っておく必要があります。敗血症の特徴的な症状は発熱や血圧の変動です。障害を受ける臓器により異なる症状があらわれます。初期には悪寒、全身のふるえ、発熱、発汗などがみられますが、これは他の疾患でもみられる症状なので鑑別が難しい。進行すると心拍数や呼吸の増加、播種性血管内凝固症候群、血圧低下、排尿困難、意識障害などを起こし、さらに重症化すれば敗血性ショックを起こしますが、そうなると治療は難しくなります」

■充血して痛みがあるときは眼内炎を疑う

 敗血症では目の状態にも注目したいと清澤院長は言う。敗血症は内因性眼内炎という形で目にも影響を及ぼしやすいからだ。

「全身症状があって敗血症のリスクのある人が急に目が痛い、目が赤く充血したというときには敗血症による眼内炎を疑うことが必要です」

「内因性細菌性眼内炎」と呼ばれる細菌による血行性感染は放置された糖尿病や慢性腎不全、あるいは内視鏡検査や外科手術の後に起こりやすいとされる。通常は片側の目にのみ起こるが、10~20%の確率で両目同時に起こることもある。その症状の進行は急速なので、視力を維持するためには早急な治療が必要となる。

「これに対して『内因性真菌性眼内炎』では、カンジダを代表とする真菌が何らかの原因で目の中に入り込み、ややゆっくりと炎症を引き起こします。発見が遅れると、真菌が増殖し失明します。発熱などの全身症状が続き、飛蚊症や霧視などの目の症状があらわれます」

 AIDSや抗がん剤の使用などで免疫がさらに低下している場合には「サイトメガロウイルス網膜症」を発症するケースがあり、これもウイルスが目に入ると考えられている。

「サイトメガロウイルス網膜症は、日本人の成人の多くが周産期に母子間で感染しているサイトメガロウイルスが原因で起きます。無症状で体内にウイルスが存続している状態から、AIDSなどで全身の免疫力が低下したときに日和見感染として発症します。この症状も視力低下、飛蚊症、視野障害などです」

 もちろん、敗血症が原因であらわれた眼内炎は、目薬をさしても治らない。硝子体手術など眼内炎の根本治療が必要となる。敗血症のリスクのある人は敗血症と目の症状についても知っておいたほうがいい。

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