宴会が増える年末年始は、一年で最も太りやすい季節だろう。しかし、そもそも論として、太っているとダメ?
日本では、体格指数BMI25以上が肥満となる。最新の考え方では、必ずしも「肥満=悪」ではない。千葉大学大学院医学研究院内分泌代謝・血液・老年内科学の横手幸太郎教授が言う。
「BMI25以上の肥満でも健康障害がなければ、目くじらを立てなくてもいいのでは。問題なのは、肥満のために健康障害がある人。『肥満症』という病気として、医学的な治療が必要です」
肥満症の概念は2000年、日本が世界に先駆けて提唱。今年12月、肥満症診療ガイドラインの改訂版が6年ぶりに発刊された。
■肥満とどう違う?
肥満か、肥満症か? その分かれ目は、肥満による健康障害があるかどうか。定義では、「BMI25以上の肥満+11の健康障害の1つ以上」「BMI25以上の肥満で、内臓脂肪型肥満が確認」のどちらかに該当する場合、肥満症となる。
「内臓脂肪型肥満は将来の健康障害リスクが高いため現在健康障害を持っていなくても肥満症とします」(神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科の小川渉教授)
■11の健康障害とは?
左の「囲み」で紹介しているのが、11の健康障害だ。いずれも減量によって改善するという十分なエビデンスがあるものになる。
肥満はこれ以外にもさまざまな病気のリスクを上げる。がん、胆石症、肺塞栓症、気管支喘息、男性不妊、胃食道逆流症、精神疾患などだ。「11の健康障害」に含まれていないのは「肥満改善でリスクが下がるという証拠が十分ではないため」(小川教授)。だからといって、軽視していいわけではない。
■どの科を受診?
肥満症専門医がいる医療機関の受診が望ましい。日本肥満学会のHPで、認定肥満症専門病院が紹介されている。
■治療は、やはり食事療法と運動?
肥満症は、BMI25以上の肥満症と、BMI35以上の高度肥満症に分類され治療指針が異なる。
これまで肥満症の治療は、食事療法、運動療法、認知行動療法が主体。食欲を抑える薬もあったが、効果は不十分だった。
「しかし現在、非常に有効な肥満症治療薬が厚労省へ薬事承認申請中です。それ以外の肥満症治療薬も臨床試験が進んでおり、今後次々と肥満症治療薬が出てくる可能性があります」(小川教授)
食事療法や運動療法は肥満症治療に不可欠だが、それでは不十分の場合の治療法もあるのだ。
薬物療法は肥満症、高度肥満症で保険適用され、高度肥満症では外科療法という手もある。
■外科療法とは?
「日本で保険適用のある術式としては、腹腔鏡で胃の下側を切り取る腹腔鏡下胃スリーブ切除術があります。単に胃を小さくして食べられなくする手術ではなく、ホルモン動態が変化して食欲や代謝に好影響を与えます」(小川教授)
BMI35以上で糖尿病、高血圧、脂質異常症、SASのうち1つ以上を合併している人が保険適用だったが、今年4月からはBMI32~34.9でも条件を満たせば保険適用となった。
■肥満症は本人のせい?
「肥満症=自己管理ができない、ではない。肥満症には体質や遺伝子も関係しています。肥満で健康障害がある人は、治療の必要があると考え、専門医に相談してほしい」(小川教授)
非常に効果の高い薬が近いうちに厚労省へ承認申請中と紹介した。GLP-1受容体作動薬だ。この薬、数年前から自費診療のクリニックでダイエット目的に処方されているが--。
「極めて由々しき問題。現段階では2型糖尿病の薬としてしか承認されておらず、本来の使い方がなされていない。今後、肥満症治療薬として承認されるとしても異なる製剤であり、改めて適切な使用が必要だ」(冒頭の横手教授)
肥満の正しい知識を。