でも、緩和ケア医として終末期のがん患者さんを多く診てきた私は、抗がん剤治療を中止したことで副作用が軽減し、体力が回復してくる人が少なからずいることを知っていました。「私の場合」もそうだったようで、みるみる元気になり、日常を回復しました。
もちろん、いずれはがんが悪化し、死に直面します。でも、そこで生じる苦痛や変化、それらを緩和する手段は、職業柄熟知していたので不安はなく、もう抗がん剤治療はやめて、自然に任せようと決意しました。せっかく元気になったのだから、身辺整理をしたり、今できそうなことをやろうとね。そんな日々の中で「抗がん剤はやりたくないけれど、少しでも長く、穏やかに自分らしい生き方がしたい」という人たちの適切な選択肢がないことに気づいたのです。
怪しげながん治療があふれる中、医師の自分が見て、ある程度筋の通った文献やデータを参照してたどり着いたのが「MDE糖質制限ケトン食」を中心とした「がん共存療法」です。がんの栄養となるブドウ糖を制限することに主眼を置いています。一般的に食事をするとインスリンが出て血糖値を下げようとするわけですが、そのインスリンががん細胞の増殖に関係しているので、血糖値を抑えることが基本となります。段階を経てクエン酸療法や少量の抗がん剤との併用など、自ら実験台となって確立してきました。
独白 愉快な“病人”たち