肥満はなぜ健康を害するのか? 正月太りが解消できない人は要注意

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 年末年始の食べ過ぎや飲み過ぎがたたって、いまだ正月太りを気にしている人も少なくないだろう。「肥満」が健康に良くないのは今や“常識”といえるほど浸透していて、とりわけ心臓や血管の病気につながるリスクが高いといわれている。では、なぜ肥満は健康を害するのか。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に聞いた。

 日本肥満学会の判定基準では、体格指数BMI(体重キログラム÷身長メートルの2乗)が「25以上」になると肥満とされる。近年は、BMI25以上の肥満にプラスして高血圧、耐糖能異常、脂質異常症などの健康障害がある人やBMI25以上で内臓脂肪型肥満が確認された場合は、さらにハイリスクとされ治療の対象となる。それくらい肥満、とりわけ内臓脂肪型肥満は健康にとってマイナスに働くのだ。

「肥満が進むと、体内の脂肪を蓄積する白色脂肪細胞が増加していきます。すると、脂肪細胞から『アディポネクチン』という生理活性物質の分泌が低下してしまう。アディポネクチンには、傷ついた血管を修復してプラークの形成や動脈硬化を防ぐ作用、インスリンの働きを高めて糖尿病を防ぐ作用、中性脂肪を燃焼させてHDLコレステロールを増やす作用、血管を拡張して高血圧を予防する作用などがあり、健康維持のための重要な働きを担っています。それが減ってしまうことで、高血糖、脂質異常、高血圧になりやすく、これら生活習慣病による動脈硬化が進み、心臓血管症につながるのです」

 増えた脂肪細胞からはほかにも血栓を溶かす物質を阻害する「PAI-1」、インスリンの働きを低下させたり血管内皮細胞の働きを抑えたり、炎症を引き起こす「TNF-α」、血管を収縮させて血圧を上げるアンギオテンシンのもとになる「アンギオテンシノーゲン」といった生理活性物質が多く分泌される。これにより血管内皮が傷ついて血栓ができやすくなり、血圧も上昇して心臓疾患のリスクがアップする。

■心房細動につながるケースも

「このようなさまざまな生活習慣病と心臓・血管の病気のリスク上昇を招く内臓脂肪の蓄積は大きな問題ですが、さらに近年は心外膜下脂肪の蓄積も注目されています。心筋の外側に付着し、心筋と心外膜との間にある脂肪で、過度に蓄積すると炎症性サイトカインの産生量が増加し、動脈硬化を促進します。また、心房筋が線維化して心房細動の原因になることもわかってきました。心房細動は心臓が細かく不規則に収縮を繰り返す不整脈のひとつで、心臓内に血栓ができやすくなり、その血栓が脳の太い血管に移動することで脳梗塞を起こす危険が高くなります」

 こうした体内で起こる“変化”だけでなく、肥満があると、酸素や栄養分を全身に届けるために血液を余分に循環させる必要があるため、ポンプの役割を担っている心臓の負担が大きくなる。

 また、肥満の人は過食であることが多く、普段から中性脂肪やコレステロール、塩分、糖質を多く含む食品を過剰に摂取しているうえ、運動も不足している傾向が強い。そのため、高血糖、高血圧、高コレステロールといった生活習慣病が重なりやすくなる。先ほども触れたように、これらは心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患、大動脈解離、心臓弁膜症、心房細動などの不整脈といった心臓疾患の大きなリスク因子で、やはり肥満は心臓にとって大敵となるのだ。

 食事のコントロールや運動習慣による減量は、高血圧、耐糖能異常、脂質異常症、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞・一過性脳虚血発作、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)、月経異常・女性不妊、SAS(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)・肥満低換気症候群、運動器疾患(変形性関節症、変形性脊椎症など)、肥満関連腎臓病の健康障害が改善することがたしかに認められている。

 正月太りは早めに解消したい。

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