がんと向き合い生きていく

4年ぶりに受けた大腸内視鏡検査の結果にホッとして力が抜けた

(C)日刊ゲンダイ

 胃や腸の症状は心の状態が関係するとよく言われます。「学校に行きたくない」「仕事に行きたくない」といった思いがあると急に腹が痛くなるなどは、いわゆる心身症の始まりかもしれません。

 どうしたことか、定期的な通勤がなくなったためか、この1カ月、朝の排便がすっきりしません。弱い下剤を飲んでみても同じです。左下腹部が時々痛み、時にはむかむかするのは、下剤のためかどうか分かりません。

 もともと神経質な私は、食欲や便通などお腹の症状には敏感です。あれこれ考えてみると、3カ月前に尻もちをついて、腰を痛めてからのような気もします。この時はCT検査を行って、腹部には腫瘍はなく問題ないとされましたが、腸の中までは分かりません。

 手帳を見ると、3年9カ月前に胃と大腸の内視鏡検査を行っていて、その時は問題ありませんでした。下腹部痛は強くなったりはしませんが、病院で詳しく診ていただくことにしました。

 採血、腹部超音波検査、X線検査を行い、中でも腹部超音波検査はかなり時間をかけて診ていただきました。検査後、便がたまっているようだと担当医から60ミリリットルの浣腸の指示があり、すぐに処置されて排便しましたが、それでもすっきりはしません。結局、便が出にくい問題は解決しないまま帰宅して経過をみることになりました。

 何が関係して便通が悪いのか? 大腸にがんはないのか? 階段を上ってみたり、屈伸運動をしてみたりしました。しかし、その後の排便もすっきりせず……いずれにしても、大腸の内視鏡検査をしてもらうしかないようです。

 妻は「きっと大丈夫よ。あなたは心配ばかりして」と言います。自分でもそう思います。もっとじっくり構えていられないものか? 病院で医師の立場になると、患者にいろいろと指導していながら、自分自身のこととなるとまったく不甲斐ないのです。

「なにをあくせく、明日をのみ、思いわずらう」 島崎藤村の詩が頭に浮かんだりします。

 そんなことを言っても、便が出にくいのだ。仕方がないではないか。自分で自分を責めてみたり、慰めてみたり……。

■担当医のやさしい声に助けられた

 結局、大腸の内視鏡検査を行うことになりました。前回の検査は外来でしたが、今回は検査前日の午前中から入院です。これはとてもありがたい。この検査は腸をきれいにするのに下剤をかけるので、急にもよおすと大変です。

 前夜から下剤を飲みました。検査を前に、がんなど何もないことを願っていても、不安がよぎります。がんがあったら手術していただくしかないのだが……いつもの眠剤を飲んで眠ることにしました。

 当日、朝早くから約1.8リットルの下剤を1時間以上かけて飲みます。ほとんど全部飲めたのに、まだ排便がないことが心配になってきたところで、便意をもよおしてきました。それから、ひっきりなしに何回もトイレに通います。だんだん固形がなくなり、水様の便になりました。よかった、これで腸を診てもらえる。

 お尻の開く検査着に着替えて、検査となりました。

「腫瘍などなにもありませんよ」「便通を良くする薬を処方しましょう」 担当の消化器医のやさしい声に助けられました。緊張した体の力が抜けるのが分かります。

 12年前、私は某病院で冠動脈バイパス手術を受け、その後も冠動脈にステントを入れていただき、おかげで生きていられています。神様は、今回も「もう少し生きていてもよい」と考えてくださったのかもしれません。

 テレビや新聞の報道では、戦争で、コロナでたくさんの方が亡くなっています。みなさんに感謝し、生きていて、何か貢献できることをまた考えよう。そう思いました。

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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