2023年も梅毒急増が止まらない…高まるリスク「いきなりエイズ」に要注意

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 梅毒の新規感染者が止まらない。国立感染症研究所が1月24日に公表した2023年1月2日から15日までに、新たに届け出のあった梅毒の新規感染者数は全国で271人に上った。

 地域別では東京の52 人を筆頭に大阪26人、福岡25人、北海道14人、愛知13人、埼玉と神奈川の11人、兵庫10人、千葉と静岡と広島と沖縄で8人などが目立つ。

 年始で検査を希望する人が減ったはずなのに勢いは衰えていない。

 22年の梅毒の新規感染者の累計は1万2966人と1万人を大きく超えて1万3000人の大台寸前まで急増したが、今年はさらに多くなるとの見方が性感染症治療の専門医の間でウワサされているという。

性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)の著者で性感染症の専門医でもある「プライベートケアクリニック東京」の尾上泰彦院長に聞いた。

 ◇  ◇  ◇

「4月から新型コロナが現在の2類からインフルエンザ並みの5類になることが話題になっていますが、そうなると自粛していた夜のお遊びが増えて性感染症患者が増えるかもしれません。いまは20代の女性を中心に梅毒感染が広がっていますが、その原因となる性感染症についての無知・無理解や貧困は解決しておらず、新規感染者数も一向に衰える様子はありません。今後が心配です」

 尾上院長がとくに注目しているのは、若い男女の知識・情報不足だ。梅毒は初期症状があり、比較的わかりやすい性感染症だが、それすら知らないという。

「アダルトビデオ以外に性に関する情報をほとんど得ていないせいか、性感染症の怖さをまるで知らない人が多い。とくに若い女性は男性に押し切られる形でコンドームなしでの行為を受け入れるなど予防に対する知識・情報を知りません。医師にしても性感染症を診ることが少ないため、あまり深刻に考えていないところがあります。それが発見の遅れと感染拡大につながっているのです」

 それは感染症発生動向調査週報の梅毒新規感染者の報告時期を見れば明らかだ。2022年は10月5日までに届け出のあった梅毒の病期は早期顕症梅毒Ⅰ期3289人、早期顕症梅毒Ⅱ期2237人、潜伏梅毒1317人、晩期顕症梅毒59人となっている。

「驚くのは晩期顕症梅毒の段階で見つかった新規感染者が59人もいることです。ゴム腫や進行性の大動脈拡張を主体とする心血管梅毒、進行麻痺といった神経梅毒に発展する段階です」

■貧困も感染の温床に

 梅毒への無知に加え、若い女性の経済状況の苦境もあるのではないか、と言う。

「女性の多くが正社員でなく非正規社員で働いていて経済的な安定が得られていません。いまより経済状況が良かった令和元年ですら、女性全体の非正規雇用比率は56%で非常に高い。年齢別で見ると、25歳から34歳で37%、35歳から44歳で51.6%、45歳から54歳で57.7%、55歳から64歳で67.7%、65歳以上で82%と高率です。若い女性は正社員であっても職業体験が少ないために収入が少ない。しかも、結婚しても共働きが普通で、女性の負担が大きいことから離婚率が38%台と高い。とくに10代は高率です。貧困が原因で風俗などでアルバイトする女性も少なからずいて、それが感染の温床になっている可能性があります」

 しかも、これからは円安に象徴されるように貧乏になった日本にお金にあかせて夜遊びを期待する外国人が多数集まってくる。

 その中には梅毒などの性感染症に感染した人がいないとも限らない。梅毒は早期発見すれば、長期作用型のペニシリン注射「ステルイズ」を打つことで治療が完了するが怖いのはエイズだ。

「感染症法に基づくHIV感染者・エイズ患者情報によると、昨年3月28日から6月26日までに171人のHIV感染者と80人のエイズ患者が報告されています。両感染症ともに男性の同性間の特殊な性感染症のイメージを持つ日本人が多いのですが、報告のうち異性間の性交渉によるHIV感染者数が29人、エイズは17人でした。気になるのはエイズと診断された80人はいきなり診断されたわけで、かなり以前にHIVウイルスに感染して発症していたということになります。その間、多くの人に感染を広げていた可能性があるのです」

 ちなみに、いきなりエイズの年齢別の人数は20代7人(うち外国籍2人)、30代25人(同6人)、40代20人(同4人)、50代18人(同4人)、60代9人(同1人)、70代1人(同0人)だった。

「エイズは梅毒と感染経路が似ていて重なる部分が多い。そのため、梅毒の急増の裏でHIVやエイズの感染が拡大している可能性があるのです。いまこそ、性感染症予防のための情報の発信と女性の貧困に歯止めをかけないと、日本の将来は梅毒やエイズなどの性感染症により暗いものになってしまいかねません」

 新型コロナだけ対策していればいいわけではないのだ。

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