Dr.中川 がんサバイバーの知恵

日本エレキテル連合・中野聡子の投稿で注目 子宮がん「体部」と「頸部」とでは組織も治療も違う

日本エレキテル連合の中野聡子さん
日本エレキテル連合の中野聡子さん(C)日刊ゲンダイ

 お笑いコンビ・日本エレキテル連合の中野聡子さん(39)は、昨年12月に予定されていた単独ライブを子宮頚がんの治療のため中止すると公表していましたが、今月20日に「先生方に丁寧に調べていただいたところ子宮頚がんではなく、子宮体がんでした」とSNSに投稿。きちんと治療できたのは、何よりです。

 子宮頚がんも子宮体がんも、子宮にできるがんですが、この2つはまったく別のがんといえます。発生の仕方も、治療法も違いますから、誤診は許されません。

 厚労省の「全国がん登録 罹患数・率報告」2019年によると、罹患数は子宮頚がんが約1万1000人で、子宮体がんが約1万8000人。子宮体がんの方が増加のペースが速い。

 子宮頚がんは、HPVというウイルス感染が原因で、感染を予防するHPVワクチンがあります。今後、ワクチン接種が進むと、先行する欧米のように罹患数が激減し、近い将来、排除されることが期待できます。

 そのHPVの感染原因は多くが性交渉です。膣の奥の管状の部分である子宮頚部のがんになるのは、そのため。

 中野さんは、子宮頚がん検査で、異常が見つかったといいます。検査では、医師が膣に専用のヘラやブラシなどを挿入して、頚部の細胞を採取。それを病理検査して、子宮頚がんかどうか判定します。

 今回、採取された細胞は、さらに奥の子宮体部ながら、頚部に近いところだったそうです。その部位だと、子宮頚がん検査でも採取される可能性があるため、当初は頚がんと伝えられたのだと思います。

 で、正しく診断された子宮体がんは、乳がんと同じで、女性ホルモンの影響で発症。妊娠中などはその分泌が抑えられますが、少子化の日本は長期にわたってその影響を受ける女性が増えているため、乳がんと同様に子宮体がんも罹患数が増加傾向なのです。

 早期の場合の治療は、子宮体がんは世界的に手術が中心ですが、子宮頚がんは放射線が有効で、放射線なら子宮を温存できます。欧米で子宮頚がんの治療は、放射線が7割です。手術偏重の日本でも、最近は放射線が手術に迫っています。

 どちらも進行がんになると、抗がん剤を使用。その種類も頚がんと体がんでは違いますから、誤診はあってはなりません。

 誤診を避けるには、病理検査が重要です。2つのがんの組織分類では、子宮体がんは腺がん、子宮頚がんは扁平上皮がんが基本。ところが、子宮頚がんの2割は、腺がんのため、体がんとの区別が問題になります。病理検査が決め手だったということです。外科医の中には、画像検査だけで「○○がんです」と手術を迫る人もいるようです。そんな独断をうのみにしてはいけません。病理検査の重要性を頭に入れておいてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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