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電気自動車の普及で寿命が延びる? 大気汚染による早期死亡が減ると米国の研究チームが報告

NYでも電気自動車普及による恩恵が
NYでも電気自動車普及による恩恵が

 米国では、温室効果ガス排出量の約3割を交通手段が占め、その90%以上がガソリンやディーゼルなどの石油系燃料で占められています。一方、電動モーターによって走る電気自動車は、大気汚染物質を排出しません。そのため、自動車の動力を、内燃機関(エンジン)から電動モーターに替えることは、交通手段の脱炭素を実現し、大気汚染を減らすための有効な手段だと考えられています。

 大気汚染が人の健康に与える影響は大きく、汚染によって平均寿命より早く亡くなる人(早期死亡者)は毎年200万人を超えるとの報告もあります。

 そんな中、持続可能なエネルギーに関する専門誌の電子版に、電気自動車の普及と早期死亡に与える影響を検討した研究論文が、2022年11月28日付で公開されました。

 この研究では、米国環境保護庁が開発した大気質モデルを用いて、米国30都市圏における電気自動車の普及と、それに伴う早期死亡数や経済的影響を分析しています。なお、大気質モデルとは、大気汚染物質の量と環境中の濃度の関係を数学的に表した模型(モデル)のことです。

 解析の結果、電気自動車の普及による恩恵が最も大きかった都市圏はロサンゼルスで、年間で1163人の早期死亡を回避し、126億1000万ドルの医療費削減に相当すると見積もられました。また、ニューヨークでも年間576人の早期死亡が回避され、62億4000万ドルの医療費削減に相当すると見積もられています。

 この解析では、自動車の電動化のみが分析対象となっており、自動車の生産工程や、発電に伴う大気汚染物質は考慮されていません。

 電気自動車の普及と同時に、エネルギー生産や製造販売におけるゼロエミッションにも取り組む必要があるように思います。

青島周一

青島周一

2004年城西大学薬学部卒。保険薬局勤務を経て12年9月より中野病院(栃木県栃木市)に勤務。“薬剤師によるEBM(科学的エビデンスに基づく医療)スタイル診療支援”の確立を目指し、その実践記録を自身のブログ「薬剤師の地域医療日誌」などに書き留めている。

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