がんと向き合い生きていく

マスターの“説得”で命を救われた男性が今度は胃の検査で…

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 65歳の独身男性Sさんは、40年間、林業関係の会社に勤務していました。夕方、仕事が終わると、いつも会社近くの飲み屋横町に出かけました。行きつけの居酒屋は決まっていて、夏の暑い日も雪が降る日も、毎回3軒“はしご”をしました。

 飲むお酒も決まっていて、某銘柄のウイスキーの水割りです。ボトルにマジックで自分の名前を書き、店のカウンター奥の棚にキープしていました。3軒とも同じ銘柄のウイスキーで、空になると店主(マスター)は新しいボトルを出し、Sさんはサインしていました。Sさんは5年前に会社を定年退職しましたが、その後も夕方になると店のカウンターにはSさんの姿がありました。

 この20年の間、Sさんはなじみの居酒屋で時々一緒になるMさん(60歳・男性)と飲み友達になってきました。Mさんとは勤めた会社も仕事も違いますが、話が合ったのです。

 飲み屋横町に8軒あった店がどんどん閉店し、昨年秋には、開店しているのはSさんが通っている1軒の店だけになってしまいました。Sさんは、Mさんとマスターを相手に、この40年を振り返るように言いました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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