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クルマを運転している時に表れる認知機能の低下サインとは?

認知機能の低下が見られる場合、運転動作にも異変が表れている可能性が…
認知機能の低下が見られる場合、運転動作にも異変が表れている可能性が…

 最近、高齢者の運転中の事故に関するニュースを目にする機会が増えました。日常生活では気づかない初期の認知機能の低下が、運転動作に表れることはあります。警視庁のホームページにも、軽度認知障害の人が運転している時に表れやすいサインが、「運転時認知障害早期発見チェックリスト30」として掲載されています。5問以上当てはまると要注意とされているので、高齢のご家族に不安があればチェックしてみるとよいでしょう。

 たとえば「カーステレオやカーナビの操作ができなくなった」という項目がありますが、そもそも患者さんは使えなくなるとカーステレオに触らなくなります。運転自体に問題がなくても、普段やっていた操作をやらなくなったようであれば注意してください。また、「急発進や急ブレーキ、急ハンドルなど、運転が荒くなった(と言われるようになった)」という項目があります。認知機能の低下のサインとして、ブレーキをかけるタイミングが遅れるので、とくにカーブが続いた時の対応が遅くなります。アクセルをふかしすぎたり、急発車や急ブレーキも増えます。

 こうした判断基準を見ていると「集中力」と「注意力」に重点が置かれていますし、実際、この2点の低下が運転時に表れる一番のサインであることが分かっています。

 ほかに「運転自体に興味がなくなった」「運転すると妙に疲れるようになった」という項目があります。ホームページにはありませんが、逆に「ちょっとした距離でも車で行くようになった」場合も注意しましょう。歩いて出かけることが減るのは、認知機能の低下が原因のケースがあるからです。歩くという行為には「集中力」「意欲」が関係しますし、歩きたがらないのは運動機能の低下が影響しているからです。高齢の親が歩いて5分のコンビニに行く際でも車を使うことが増えたら要注意。ご家族は予防も兼ねて近場なら「一緒に歩いて行こう」と声をかけてあげましょう。

 ちなみに、高齢者の運転に関して「車庫入れ」で車をよくこすったり、時間がかかって上手に止められなくなったという相談があります。この場合は視空間認知力が衰えており、すでに認知機能の低下が進んでいるケースです。

 また、認知機能の低下が見られる患者さんは、運転動作以外の日常生活にも「集中力」と「注意力」の低下が表れます。湯飲みをひっくり返すことが多くなったり、食べこぼしが増えて机や服を汚すようになったり、ボタンの掛け違いが多くなったなら、注意が必要です。これらが見られる場合、運転動作にも異変が表れている可能性があります。本人に自覚症状がなくても、とくに70歳を過ぎていたら毎年脳ドック(MRI)を受けることをお勧めします。

▽石川久(いしかわ・ひさし) 2007年近畿大学医学部初期研修医、09年に近畿大学医学部救命救急センター助教、12年に帝京大学医学部救命救急センター(現高度救命センター)助手などを経て、18年に帝京大学医学部脳神経外科助手、21年8月から国際医療福祉大学三田病院脳神経外科講師。救急科専門医。

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