コロナ禍で一気に広まった「解熱鎮痛薬」に追加された重大な副作用

子供や妊婦にも処方されているが…
子供や妊婦にも処方されているが…

 長期にわたるコロナ禍でさらに身近になったクスリで深刻な副作用が起こりかねないリスクが判明した。コロナ感染症やワクチン接種による発熱に対して使用される解熱鎮痛薬「アセトアミノフェン」の重大な副作用として、「薬剤性過敏症症候群」が追加されたのだ。長久堂野村病院診療支援部薬剤科科長の荒川隆之氏(感染制御認定薬剤師)に詳しく聞いた。

 独立行政法人「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」には、医薬品の安全対策や副作用の状況を把握するために、医薬品の使用で発生した健康被害の情報を、医療機関、薬局、医師、薬剤師、製薬会社などが報告する制度(医薬品・医療機器等安全性情報報告制度)がある。また、副作用が生じた患者やその家族もPMDAのウェブページや規定の用紙に必要事項を書き込むなどして報告できる。

「このPMDAの副作用等報告データベースに登録された薬剤性過敏症症候群の国内症例を評価したところ、アセトアミノフェンの経口薬、座薬、注射薬によるもの計44例が報告されていて、死亡も3例見られました。これを受け、厚労省は1月17日にアセトアミノフェン含有製剤の添付文書にある『重大な副作用』の項目に、薬剤性過敏症症候群の追記を指示する通知を出しました。現在、医療機関や薬局には改訂された添付文書が製薬会社から続々と届いています」

 薬剤性過敏症症候群とは、原因となるクスリを使ったことで起こる重症の薬疹で、広範囲の皮膚が赤くなる、38度以上の高熱が出る、喉の痛み、全身の倦怠感、全身のリンパ節の腫れ、肝機能障害、腎機能障害といった症状が現れる。特定の薬剤に対するアレルギー反応をきっかけに、潜伏感染しているウイルスの再活性化が複合して発症すると考えられている。

 原因薬剤を使っている1000~1万人に1人が発症すると報告されていて、投与後2~6週間たってから発症するケースが多い。また、原因薬剤を中止した後も2週間以上続き、軽快するまで1カ月以上かかる場合もある。悪化すると死に至るケースもあり、致死率は10%と高く注意が必要だ。

「これまで、薬剤性過敏症症候群の原因になるクスリは、抗てんかん薬、痛風治療薬、抗ハンセン病薬、不整脈治療薬、抗菌薬の一部など比較的限られていました。しかし、長引くコロナ禍とワクチン接種によって、薬局から品物がなくなるほど、それまでとはケタ違いに多くの人がアセトアミノフェンを使ったことで、これまでは見えていなかった副作用が表に出てきたのでしょう」

■皮膚症状が出たら注意

 アセトアミノフェンは、脳の中枢神経や体温調節中枢に作用することで効果を出す。効き目が穏やかで体への負担や副作用も少ないため、子供や妊婦にも処方されている。乳幼児の解熱に使われる座薬もアセトアミノフェンだ。抗炎症作用がほとんどなく、コロナ感染やワクチン接種による発熱に対しても、“安全な解熱剤”として推奨されていた。それが、まれとはいえ最悪なら命の危険がある深刻な副作用が判明したとなると、より慎重かつ適切に使用する心構えが必要になる。

「アセトアミノフェンなら安心安全という思い込みは捨てて、極めてまれとはいえ深刻な副作用が起こるケースもあり得ると知っておくことが大切です。そのうえで、使い始めてから1カ月以内に体に異変が現れたら、すぐに医師や薬剤師に相談してください。薬剤性過敏症症候群と同じように、クスリに対する過敏反応によって起こるスティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死融解症でも、最初は発疹などの皮膚症状が出るケースが多いといえます。アセトアミノフェンを使って皮膚症状が出たら、すぐに医療機関を受診しましょう」

 確立された治療法はまだないものの、まずは原因として疑われる薬剤の使用をすべて中止し、その後で内服によるステロイド治療を行うのが一般的だという。

「クスリを何種類も使っている場合、どのクスリが原因なのか判別するのは難しいですし、どうしても飲まなければいけないクスリがある人もいます。新しいクスリを使い始めて何らかの異変が生じたからといって、自己判断ですべてのクスリを中止するのは厳禁です。必ず医師に相談してください」

 100%安全なクスリはない。そう肝に銘じてから適切にクスリを使いたい。

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