がんと向き合い生きていく

末期がんの男性は食事が中止になり「死が近づいた」と思った

佐々木常雄氏(C)日刊ゲンダイ

 ある日、食事がほとんど取れていないことから、担当医に「食事はやめますが、よろしいですか? 食べられそうな時はまた出しますから」と言われ、中止になりました。死が近づいたと思いました。

 中心静脈から高カロリーの輸液は可能でしたが、Kさんは苦しむ期間が長くなるのではないかと思い、断りました。ジュースを3本ほど冷蔵庫に入れてあったので、少しずつ飲んでみると吐くことはありませんでした。食事の時は、助手さんがお茶だけを持ってきてくれました。内服の薬も小さな錠剤が2個に減りました。

 看護師さんから転倒を心配され、排尿は尿瓶を使うことになりました。もしトイレに行きたい時は必ずナースコールを押すように言われました。

 シャワー浴を希望したところ、ベッドに寝たまま浴室まで運ばれ、全身を洗ってくれました。この時はとても気分が良かった。下着を着替える時、あばら骨が目立って「このやせ細った体が元に戻るのは無理だ」と思いました。看護師さんは背中を見て「褥瘡なし」と口にしていました。この時が最後のシャワーとなり、それからは清拭だけになりました。

2 / 4 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事