死亡リスク3.5倍の「心房細動」に要注意…患者の4割が無症状

自分で脈を測って記録しておくことも大事
自分で脈を測って記録しておくことも大事

「心房細動」と聞いて、どんな病気かわかる人はそう多くはないのではないか? 巨人軍終身名誉監督の長嶋茂雄さんやサッカー日本代表元監督のオシムさん(故人)が心房細動が原因で脳梗塞を起こした──と言えば「あぁ」と思う人もいるかもしれない。3月9日(脈の日)から1週間は「心房細動週間」。このタイミングで心房細動の知識を深めようではないか。

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 心房細動は不整脈の一種。心房内に流れる電気信号の乱れで心臓が急に不規則に拍動するようになり、血液をうまく全身に送り出せなくなる。すると心臓の中の血液が滞って固まりやすくなり、血栓(血液の塊)ができやすくなる。心房細動を放置していると、突然死のリスクが高くなる。

「心房細動の死亡リスクは1.5~3.5倍。すべての脳梗塞の20~30%は心房細動が原因で、心房細動の人は約5倍、脳梗塞になりやすい」(京都府立医科大学不整脈先進医療学講座・妹尾恵太郎医師=以下同)

 その上、心房細動による脳梗塞(心原性脳塞栓症)は命に関わる重篤なものになりやすい。心臓内でできた血栓が脳に飛んでいき脳梗塞を起こすわけだが、血栓のサイズが大きいため脳の太い血管に詰まり、広範囲で脳細胞が壊死してしまうからだ。

「命は助かっても、麻痺や寝たきりなど重い後遺症が残る可能性が高い」

 心房細動が関連するのは脳梗塞だけではない。心房細動患者の20~30%は心不全を合併。心不全は、心臓のポンプ機能が悪くなり、やがて治療法がなくなって死に至る病気だ。心房細動があると認知症の発症リスクが上昇し、その率1.4~1.6倍。

 だから心房細動は早期に発見し、治療を開始する必要がある。しかし、これがまた厄介。心房細動の主な症状は、動悸、胸苦しさ、呼吸困難、めまいなどだが、患者の約4割は無症状だからだ。無症状でも脳梗塞のなりやすさは、症状がある場合と変わらない。

「息切れや動悸があっても、それが軽ければ徐々に体が慣れてしまい、症状を感じなくなるケースもあります」

■高血圧、肥満、糖尿病の人はなりやすい

「自分は大丈夫」と思っていても大丈夫ではない人がかなりいることが考えられる。心房細動を早期発見するには、息切れや動悸があれば程度が軽くても「年のせい」「しばらく様子を見よう」などとせず、医療機関を受診することだ。前述の通り無症状が半数近くいるので脈や心臓の状態を把握する機会を増やすことも大切。

「自分で脈を調べる(検脈)。さらに自宅で手軽に心電図を測れる家庭用心電計も売られているので、それを活用する」

 検脈や心電計での測定結果は記録しておき、病院を受診する際に持参するとベターだ。

「心不全、高血圧、狭心症、心筋梗塞、弁膜症がある人は心房細動を発症しやすい。心臓由来でないものとしては、加齢、肥満、糖尿病、飲酒や喫煙の習慣、睡眠時無呼吸症候群、ストレス、甲状腺機能亢進症がリスク因子です」

 リスク因子が多い人ほど、わずかな症状を見逃さないようにし、日頃から検脈、そして心電計の活用を心がけるべきだ。

 心房細動と診断されれば、生活習慣の改善に加え、薬物治療。心房細動を抑える抗不整脈薬、血栓をできにくく(血液をサラサラに)する抗凝固薬を使う。抗凝固薬は、心房細動が原因の脳梗塞のリスクを60%以上低減できるといわれている。

 また、「カテーテルアブレーション治療」も検討される。カテーテルを脚の付け根から心臓まで入れ、異常な電気信号を出している部位を焼灼する方法だ。

 心房細動は、年々患者数が増加しており、2030年には患者数が108万人を超えると予測されている。無症状の心房細動を含めると、もっと多くなるという指摘もある。自己判断で、「自分は大丈夫」と思うのは禁物だ。

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