日本では100人に1人が発症する「統合失調症」は治療で寛解できる

日本人では100人に1人が発症(写真はイメージ)
日本人では100人に1人が発症(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

「統合失調症」というと、特殊な精神疾患とのイメージが強いが、日本では100人に1人が発症しているとの報告があり、決して珍しい病気ではない。近年は治療法の研究が進んでおり寛解も期待できるようになってきた。しかし、症状があっても自覚がないため本人は気づきにくく、受診が遅れて悪化するケースも多い。家族が発症する可能性も考えて、特有の症状と治療法について知っておきたい。国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所児童・予防精神医学研究部部長の住吉太幹氏に詳しく聞いた。

 統合失調症は、かつては「精神分裂症」と呼ばれていたが、その名前から誤解や偏見を生みかねないと懸念され、2002年に現在の「統合失調症」へ名称変更された。

 症状は大きく分けて3つある。①幻覚や妄想などの「陽性症状」②物事に対する意欲の低下や引きこもるといった「陰性症状」③注意力や集中力の低下や段取りができなくなる「認知機能障害」。認知機能障害には、他者の感情をくみ取るなど対人交流の機能が障害される「社会認知機能障害」も含まれる。

「20歳前後で発症する人が多いです。発症の原因はいまだ明らかになっていませんが、元々の性格が神経質、内向的、敏感な人や、家族に統合失調症の人がいると発症しやすいといわれています。また、ネグレクトや親の収入などの養育環境も発症に関係しているという説があります。患者さんには幻覚・妄想の他に、話にまとまりがなく主語述語がつながらない『思考の解体』がみられ、意欲低下の状態が1カ月から半年ほど続いている場合、統合失調症の疑いがあります」

 受診せず放置した場合の自殺(企図)率は30~50%とかなり高い。発症しても約30%の人は治療によって寛解するので、疑われる症状がみられる際には家族や周囲が自覚症状を感じにくい本人へ受診を促し、早期に治療を開始したい。

「治療は抗精神病薬の処方を行います。また、薬と一緒に生活技能訓練、作業療法などの心理社会的治療を行うと効果的です」

 さらに近年、新たな治療法の研究が進んでいる。異常がみられる神経の機能に対して微弱な電気刺激を行い、症状の改善を図る「経頭蓋直流電気刺激(tDCS)」だ。

 この低侵襲性脳刺激法は1900年代半ばからあるが、脳の刺激する場所を変えるなど改良が行われてきた。薬での改善効果が感じられにくい認知機能障害にも有効であることが明らかになっている。

「さらに今回の研究では、脳の左上側頭溝を刺激することで『社会認知機能』の障害が軽減されることを、世界で初めて確認しました」

 これまでのtDCSを用いた研究では、脳の左前頭前野に対する陽極刺激を行っていた。その場合、「神経認知機能(記憶力など)」を改善させるが、「社会認知機能」への効果は弱かったという。それが、左上側頭溝を刺激したことで、社会認知機能に改善がみられた。社会認知機能を抗精神病薬とtDCSで比較したところ、抗精神病薬では小さい効果であったのに対し、tDCSでは中等度以上の効果が得られた。これらの結果から、患者が復学や就労といった社会復帰を促すための有効な治療法になることが期待される。

 tDCSは、頭皮上に2つのスポンジ電極を置き、電極間に1~2ミリアンペア程度の微弱な電気を流し、脳の神経活動を調節する。麻酔の必要がなく、副作用のリスクが少ない。研究では1回20分、1日2回を連続5日間行うことで社会認知機能の障害に改善効果がみられた。統合失調症だけでなく、うつ病にも効果があるという。

「tDCSは、まだ研究の段階ですが、陽性症状、陰性症状、認知機能障害など、全ての症状に有効であると示されました。個人差はありますが、被験者の半数以上に効果がみられ、特に認知機能には薬よりも効く可能性があります。このような研究に協力してくれる患者さんがより多く集まり、安全性や有効性を認められれば、今後保険適用での治療も可能になるでしょう」

 統合失調症は治療で寛解も十分に見込める。疑われる症状があった際には早期に受診したい。

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