独白 愉快な“病人”たち

便器を抱えたまま…リポーターの菊田あや子さん“めまい症”との苦闘

菊田あや子さん
菊田あや子さん(C)日刊ゲンダイ
菊田あや子さん(リポーター/63歳)=良性発作性頭位めまい症

 今年1月3日でした。朝6時に起きたら、突然、地球がグルングルン回ったの。オエ~ッとなってトイレに行ったけれど、喉に指を突っ込んでも何も出ない。なんとかして吐こうとして吐く体勢になると、またグルグル回る。けれど吐けないから頭を上げる。でも気持ち悪いから吐こうとして頭を下げるとまたグルグル……。

「良性発作性頭位めまい症」は、特定の頭の動きをすることでめまいを誘発してしまう病気なのですけれど、そのときの私は何もわかりませんから、便器を抱えたまま吐けないし、立てないし、どうしようもない状態でした。

 その日は毎週朝9時30分からラジオの生放送に出演する日。最低でも8時30分にタクシーに乗る必要がある。あと2時間はある。お風呂は諦めよう。ラジオだからこの際メークもしなくていい。でもこのままでは服も着れないし、タクシーまでたどり着けない。とにかく関係者に連絡をして状態を伝えようと、あちこちに電話を入れました。「局に来なくてもいいです。電話出演にしましょう」と決まったのは8時30分でした。

 9時過ぎに本番前のテストがあって、やれやれと思ったのもつかの間、ソファに横になった途端、超高速回転のメリーゴーラウンドに乗ったようになり、眼球がババーッと激しく動いているのを感じました。と同時に、ものすごい吐き気に襲われて、ついにトイレで吐いたんです。出たのは大量の胃液。嘔吐に備えてボウルを抱えながら本番を迎えました。でも、そこはプロなので何事もなかったかのようにしゃべって、9分間の生出演を終えることができました。

 すぐに病院へ行くことを考えましたが、1月3日だったのでその日はおとなしくして、翌4日に行きつけの大学病院の耳鼻科を受診しました。

 何科に行けばいいかは、検索ワード「めまい」で調べたらすぐにわかりました。こういうときインターネットは本当に便利です。

 病院で症状を話すと、歯科医院にあるような椅子に座らされて、大きなゴーグルのような眼鏡をかけさせられました。「後ろに倒れますよ」とゆっくりリクライニングしたその途端、グルグル目が回り出しました。かけた眼鏡で眼振(眼球が無意識に動いてしまう症状)が確認され、「良性発作性頭位めまい症」と診断されました。

■いったん改善したものの1週間で再発

 加齢などによって耳石(耳の奥にある重力を感知する耳石器に張り付いているカルシウムの結晶)がはがれて半規管に入り、頭位に伴って耳石が動いてめまいを起こす病気です。治療は服薬と体操でした。

 服薬はあまり効果がなかったので2週間ほどでやめましたが、体操は今でも続けています。あおむけに寝た状態からゆっくり上体を起こして、そのまま体を前に倒す動作を20回。さらにあおむけに寝た状態から右にゴロン、左にゴロンと転がるのを20回。気持ち悪くなるんですけど頑張っています。

 私は上下に頭を動かすとダメで、朝起きるときはもちろん、高い所の物を取ろうとしたり、落ちた物を取ろうとするとクラクラしてしまいます。

 ただ、最初のめまいから3週間後、京都・大阪での講演会に出かけたときに一瞬、治ったんです。ちょうど大雪の日で、京都駅に降り立ったら全面真っ白。吹雪の中、凍えながらホテルを捜して、足元にも細心の注意を払って必死でした。途中で「予定したホテルで水が出なくなったので、別のホテルを用意しました」と連絡が入り、それが駅の反対側のホテルで本当に大変でした。

 翌日、大阪に移動するのも大変でしたが、無事に講演を終えて、ヘトヘトで東京に帰宅して横になったときに急に気づいたんです。「あれ? グルグルしない。治ったかも?」と。翌日もその翌日も大丈夫だったので「治った、やった!」と思いました。でも奇跡の1週間だったようで、見事に再発……。最初のような激しいめまいはないものの、頭を上下に動かさないように気を付けて日々を過ごしています。

 じつはこの最初のめまいの翌朝には、胸の真ん中をドン! と殴られたような衝撃で目覚めたのです。「心臓?」とびっくりして、耳鼻科の後に循環器科の病院も行きまして、心電図をとってもらいました。幸い異常はなかったのですけれど、ニトロなんとかという薬を出されて「またあったらためらわず飲んでください。動けなくなったらためらわず救急車を呼んでください」と言われました。というわけでニトロを持ち歩くようになりました。

 思いもよらない何かが起きたりする年齢に入ってきたんだなとつくづく思います。気を付けていることはたくさんありますけれど、転ばないことと体重管理ですかね。現状をキープしようと毎日体重計に乗って、数百グラムの増量に目を光らせています(笑)。

(聞き手=松永詠美子)

▽菊田あや子(きくた・あやこ)1959年、山口県生まれ。大学在学中にラジオ関東(現・ラジオ日本)のオーディションに合格し、その後、主にグルメリポーターとしてワイドショーなどで活躍。母親の死後に終活ガイドの資格を取得し、一般社団法人「終活協議会」の理事を務め、介護や認知症、終活の講演会などを行っている。

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