手術後に肺血栓塞栓症を起こして突然死を招いた“事故”として、ほかにもこんなケースがありました。ある大企業の会長が、脊柱管狭窄症の手術を受けた時のことです。その会長はもともと狭心症で冠動脈を広げるため血管内にステント(金属製の筒状の網)が入っていたため、普段から血栓を予防するために抗血小板薬を飲んでいました。しかし、その病院では手術での出血リスクを減らす目的で抗血小板薬が中止され、手術が行われました。その結果、退院の数日前に肺血栓塞栓症の診断で亡くなってしまったのです。もしかするとステント内血栓症による心臓突然死だったかもしれません。
米国麻酔学会における術前身体状態分類のハイリスク群に該当する場合、たとえば冠動脈疾患や脳血管障害などがある患者さんは、手術を受けた後の回復期に血栓ができやすい状態になる期間があります。手術による出血や傷を自身で修復するために、体内で血液中の凝固に関わる因子を積極的に増やすのです。当然、その期間は血栓ができやすくなり、肺血栓塞栓症を起こすリスクはアップします。もともと血栓ができやすいうえ、予防のための抗血小板薬が中止されれば、なおさら危険度は上がります。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」