医療だけでは幸せになれない

迷うようなことはだいたいどっちでもいい…考え続けることが重要

着けていてもいいし、外していてもいい(C)日刊ゲンダイ

■判断や行動で思考を縛ってはいけない

 私自身はそれなりの給与をもらって研修していたが、それでも、月の時間外労働が200時間ということもあった。支給される時間外は40時間までだったと記憶している。まるで眠れない当直の翌日もいつものように働いた。下手をするとそのまま次の日の夜まで働き続けるということもあった。それでも何とかやってこられたのは、「医師になることが重要だ」という判断をせずに、なんとなく医師になったからという気もする。よくよく考えた末の判断で医者になっていたとすれば、その期待と現実のギャップに押しつぶされていたかもしれない。

 ただそれは、30年以上にわたって医者を続けてきた主な要因ではない。最も大きなこととしては、「がんばることが重要」という価値観が常に頭にあったことではないかと思う。しかし、この「がんばることが重要」というのも、今となってはそんなふうに思うこともなかったなというのが、正直なところだ。私には3人の子供がいるが、3人ともそれほどがんばらず、こうなりたいというのもなく、30歳を過ぎているが、それなりに楽しそうに毎日生きている。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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