独白 愉快な“病人”たち

小倉一郎さん肺がんとの闘い「子供たちに伝えたとき、ガマンしていた涙がワーッと」

小倉一郎さん(C)日刊ゲンダイ
小倉一郎さん(俳優/71歳)=肺がん

 去年3月、ステージ4の「肺がん」と宣告されました。判明したきっかけは骨折でした。一昨年12月、ドラマ「さすらい署長 風間昭平」(テレビ東京系)のロケ先の福島で、移動車のレールの枕木の下に右足先が入り込んでひっくり返り、右足首を骨折してしまったのです。

 代役を立てる余裕はなく応急処置だけして撮影を続け、年末に帰京。近所の整形外科に通い始めたのですが、そのうち背中の右側が痛み出し、2月末になっても痛みが取れませんでした。肺がんかな、という予感がしました。

 その少し前に、いとこが肩の痛みから肺がんが発覚したので……。

 案の定、肺がんでした。医師には「手術も、放射線治療も、抗がん剤治療も、効果は期待できない」と言われました。「そうなんだ」と冷静に受け止めました。

 でも、長女が「がん専門の病院でも診てもらいたい」と言うので、紹介状を書いてもらい別の病院にかかりました。そうしたら、みぞおちの上の胸骨と右脳にも転移している、と。しかし、担当の先生は「ステージ4でも大丈夫です。最近は副作用のない抗がん剤もありますから安心してください」と言うではないですか。もう、「うっそー」ですよ。

 4月に1週間ほど入院して、胸骨と脳の放射線治療を受けました。放射線って、1回5分くらい当てるだけなんですね。痛くも何ともない。ただ、動いちゃダメ。だから、たとえば脳に放射線を当てるときは、顔にいきなり熱い餅のようなものをビタッと乗っけられるんです。それを頭や肩まで引きのばして、動けないようにして放射線を当てるんですねぇ。

 そして、なんと脳は1回、胸骨は1週間の放射線治療でがんが消えたんです。

 両肺は抗がん剤治療です。4月の後半から1カ月に1回、2時間余りかけて点滴で始めました。それもよく効いて、1回目の治療の翌月、病院へ行ってCTを撮ったら、もう小さくなっていたんです。「あれ、小さくなってませんか?」と聞いたら、先生は「なってますね」なんて冷静に言うんですよ。もう泣きそうになりました。だって、一時は死を覚悟し、「最後だから桜を見に行こう」って、4人の子供たちと5人の孫たちのみんなで、熱海に温泉旅行に行ったぐらいですから。診察室を出た後、トイレの個室に駆け込み、子供たちにメールで伝えたら、ガマンしていた涙がワーッと流れてきました。

■体力をつけるため朝からステーキ

 抗がん剤治療は今も続けています。左肺のがんはすっかり消え、右肺のがんもこの2月にCT検査をしてもらったら、消えていました! もう抗がん剤は必要ないのかな、と思うほどですが、少しでも残っていると脳などに転移することがあるそうで、2、3年は続けたほうがいいだろう、と言われています。

 先生がおっしゃっていたように、吐き気や脱毛といった抗がん剤の副作用はありません。ただ、肩の痛みがなかなか取れなくて、私の場合、その痛みとの闘いでした。痛み止めの錠剤に加え、頓服もいただき3回飲みましたが、あまり効かなくて……。痛みで食事がとれないほどで、友人が送ってくれた栄養補助食品でしのいでいました。

 それでも、もともと55キロあった体重が、一時は44キロに。顔が長くなって、風呂に入るとあばら骨が浮き出ていて、我ながら驚きました。でも、がんがほとんど消え、まだやりたいことができると思うと、「体力をつけなきゃ!」と、このごろはがんばって朝からステーキなんか食べたりしています(笑)。今では痛みもなくなり、体重は49~50キロまで戻りました。

 元気が戻ってくると、最初の病院で受けた診断は何だったのかと思います。あそこで諦めていたら……と思うと恐ろしい。娘の助言に従って、専門医のセカンドオピニオンをうかがって良かったと本当に思いますね。

 家族のありがたみも痛感しています。子供たちは治療について一緒に考えてくれますし、病院に付き添ってもくれます。経済的にも援助してくれました。抗がん剤治療は1回9万円以上かかり、高額療養費制度を利用しても、2、3年続けるとなると負担は少なくありません。俳優の仕事も去年はできなくなり、収入が減りましたから。

 先生にうかがったら、私の肺がんは非小細胞がんで、腺がんか扁平上皮がんであろう、ということです。原因はわかりません。突発的なものだと思います。ただ、たばこは長らくヘビースモーカーでした。1日5箱吸っていましたから。これまで自然気胸を4回やっていて、20年以上前に手術をしてからは、キッパリやめています。

(聞き手=中野裕子)

▽小倉一郎(おぐら・いちろう) 1951年、鹿児島県薩摩郡下甑村(現・薩摩川内市下甑町)生まれ。64年、石原裕次郎主演映画「敗れざるもの」でデビューし、天才子役といわれる。その後、山田太一脚本ドラマ「それぞれの秋」「ヨイショ」(ともにTBS系)や、「俺たちの朝」(日本テレビ系)などで活躍。俳人や童謡作家としても活動。3月27~30日、「俳句先輩」(日テレプラス、ひかりTV)でドラマ復帰。芸名を俳号と統一し小倉蒼蛙(そうあ)に改めた。

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