Dr.中川 がんサバイバーの知恵

前立腺がんの新たな血液検査の利用価値 PSA検査より高精度

高精度な血液検査の仕組みが開発された
高精度な血液検査の仕組みが開発された

 男性も年を重ねると、前立腺の異常を心配するかもしれません。そこにできる腫瘍が前立腺がんで、PSA検査で調べることができます。採血で測定できるため簡便ですが検査精度に問題があることがネック。このほど弘前大の研究グループが、より精度の高い検査方法を開発し、注目を集めています。

 前立腺にがんなどができると、血液中にタンパク質の一種PSA(前立腺特異抗原)が分泌されます。血液1ミリリットルあたり4ナノグラム未満が正常で、4以上だと前立腺がんが疑われる仕組みです。

 PSAの数値はがんがあれば上昇しますが、前立腺肥大や前立腺炎などでも上昇することが分かっています。そのため、PSA値が4~10のグレーゾーンと呼ばれる数値帯では、およそ7割ががんではないという報告があるのです。

 前立腺がんを確定するには、前立腺10カ所以上に針を刺して組織を採取する針生検や肛門からの触診が欠かせません。患者さんはつらい思いを余儀なくされます。グレーゾーンでは、7割がこれらの検査が不要かもしれないということです。

 そこで弘前大のグループはPSAに連なる糖鎖に注目。前立腺にがんができると、その構造が変化することを突き止め、その構造の違いを調べるための血液検査の仕組みを開発したのです。

 臨床試験で前立腺がんが疑われる439人を調べたところ、がんかどうかを区別する精度がPSA検査より2倍近く高いという結果が得られました。研究グループは、PSA検査で数値が高い人に2次的にこの検査をすることで、4割前後の針生検を回避できるとしています。

 前立腺肥大でもPSAが10を超えることは珍しくないため、血液検査で前立腺がんを絞り込めるのは歓迎です。前立腺がんは、日本人男性の9人に1人が罹患(りかん)します。この検査がもたらす影響は大きいでしょう。

 ただし、注意点もあります。前立腺がんは、他のがんに比べると穏やかなことがあり、たとえ前立腺がんができても死因にならないことがあるのです。その割合は、70代で2割、80代で3割、90代で5割と少なくありません。

 こうした穏やかなタイプについては、手術や放射線などをせず経過観察のみにとどめる監視療法で様子を見ます。もし悪性度が上がって悪さをしそうなら、そのタイミングで治療をするのです。今回の検査方法の開発で前立腺がんの絞り込みが進むことは歓迎ですが、過剰診断・過剰治療で監視療法がおろそかになる懸念はあるかもしれません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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