第一人者が教える 認知症のすべて

「BPSD」のひとつが幻覚や妄想 認知症の30~40%でみられる

安心感を与えることが大切(C)日刊ゲンダイ

 これらの妄想に対して、非薬物療法として十分なエビデンスのある治療は現時点では存在しません。妄想が生じるのは、脳神経の障害が根本的原因なので、理屈を述べて「そうではない」と周囲が言っても、認知症の方がそれを受け入れることは困難です。

 まず行うべきは、本人の訴えを傾聴すること。頭ごなしの否定は絶対に避けるべきです。

 認知症の妄想は、自分の能力が低下してしまったことへの不安や喪失感、劣等感、孤独感からきているともいわれています。たとえば「妻がほかの男と浮気をしている!」と思い込む被害妄想では、認知症患者とそうでない伴侶(この場合は妻)の健康状態格差が影響しているとも指摘されているのです。 

 受容的・共感的態度で接し、安心感を与えることが非常に大事。「認知症だから何もできない」とするのではなく、役割を与え、生きがいを持ってもらうことも重要です。

4 / 4 ページ

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

関連記事