健康長寿のカギは腎臓にあり

人工透析を回避するためにこれからやれることをやっていこう

「腎臓リハビリテーション」と呼ばれる運動療法も
「腎臓リハビリテーション」と呼ばれる運動療法も

 これまで約半年にわたって「慢性腎臓病(CKD)」についてお話ししてきました。なぜ、これだけ時間をかけて詳しく話してきたかというと、慢性腎臓病になると、連鎖してほかの臓器も悪くなっていく可能性が非常に大きいからです。

 慢性腎臓病はステージがあり、かなり進行しないと自覚症状が出にくい病気。そのため「慢性腎臓病だと言われたけど、元気だし、放置していてもいいだろう」と考える患者さんはかなり多いんですね。

 決して脅かすつもりはありませんが、私は「放置していていい」から「放置せずに、医師に相談を」というように患者さんの考え方を変えていきたいと思っており、この連載でも何度も繰り返しそうお伝えしてきました。

 透析をしていない慢性腎臓病の患者さんの死因は、心臓や脳の病気が多い。慢性腎臓病の患者さんがこれらの病気に罹患する可能性は、健康な人の約3倍になるという報告があります。

 慢性腎臓病と聞くと、すぐ「人工透析になるの?」と心配されがちなのですが、慢性腎臓病の患者さんの中で人工透析を受けている患者さんは、現在全体の約2%となっています。

 では、大半の慢性腎臓病は「大した病気じゃないのか」と言われれば、それは違います。先に書いたように、慢性腎臓病になると、心臓と脳と血管に負担がかかります。その背景には動脈硬化があり、そのまた背景には糖尿病や高血圧などの生活習慣病があるわけです。

 慢性腎臓病の患者さんは、健康な人に比べると約30%身体機能が低くなる。結果、寝たきりになってしまう人が増えるというデータがあります。

 ですから、最近、慢性腎臓病の患者さんに対してのアプローチに「運動の推奨」があり、当クリニックでも「腎臓リハビリテーション」と呼ばれる運動療法に取り組んでいます。

 むろん、患者さんの状態により運動を勧められないこともありますが、かつては「慢性腎臓病の患者は運動してはいけない」と言われていたものが、近年流れが変わってきたということも、ぜひ多くの人に知っていただきたいと思っております。

「慢性腎臓病だけど、人工透析は必要ないらしいから安心した」と考えるのではなく、「慢性腎臓病になった。人工透析を予防するためにこれからやれることをやっていこう」という考え方が世間に広く浸透してほしい。それが私の願いでもあり、使命でもあると思っています。

 この連載は今回で終了となりますが、「慢性腎臓病」についての理解がより深まることを心から願っています。 (おわり)

森維久郎

森維久郎

三重大学医学部卒業。日本腎臓学会専門医。2020年5月、腎臓内科、糖尿病内科、生活習慣病の診療に特化したクリニックを開院。腎臓について伝える情報サイト「腎臓内科ドットコム(https://jinzonaika.com/)」を監修。

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