Dr.中川 がんサバイバーの知恵

秋野暢子さんは「鬼退治終了」…食道がんは外科医の手術誘導をうのみにしない

秋野暢子さん
秋野暢子さん(C)日刊ゲンダイ

「最終検査のPET/CTの結果、昨年6月に見つかった7個のがんがきれいに消えてました」

 今月24日、ブログにこうつづったのは、女優の秋野暢子さん(66)です。ステージ3の頚部食道がんと診断されてから、放射線と抗がん剤を併用する化学放射線療法をスタート。今年1月に治療が終了したものの、早期とみられる再発があり、内視鏡手術で切除。経過観察で画像からがんが消え、「鬼退治終了」と喜んでいます。

 食道がん治療において今回のニュースは、大きな意味を持ちます。ステージ3までは世界的に手術が中心で、特に腫瘍が粘膜の中にとどまるステージ0は内視鏡切除がベストです。化学放射線療法は第2選択の位置づけで、それが選ばれるのは持病との兼ね合いで手術が難しかったり、手術を拒否したりするケースです。

 しかし、食道がんの手術は、手術の中でもとても大がかりで、食道と胃の一部を切除して、同時にリンパ節を含む周辺の組織を切除します。その上で胃を持ち上げ、残っている首の食道とつないで、食道の代用とするのです。

 食事が減って体重が大幅ダウンするほか、飲食物が小腸に早く流れ込むことで、動悸(どうき)や発汗、めまいなどを起こすダンピング症候群に悩まされやすい。手術の後遺症がつらいのです。

 食道がんの化学放射線療法は、手術にとってかわる可能性を秘めています。国立がん研究センター中央病院は、ステージ1の食道がんを対象に手術と化学放射線療法に分けて5年以上の経過を追跡。その結果、5年生存率は、化学放射線療法が85.5%で、手術が86.5%。手術と同等の成績が示されたのです。

 化学放射線療法では、やや再発が多く認められたものの、その後に再発を切除する手術を追加することで、最終的な生存期間に有意差はありませんでした。化学放射線治療で食道を温存できる意義は大きいし、それで再発しても手術できることを示したのも、この試験のポイントです。

 これまで外科医は、「食道がんの手術後に再発すると、放射線治療が可能ですが、放射線治療の後には手術ができない」との説明で、手術に誘導することがありました。それで食道を失い、前述の後遺症に苦しむ人が少なくないのです。

 今回の報道を受けて、化学放射線療法で食道の温存を希望する方が増えるかもしれません。もちろん化学放射線療法にも口内炎やのどの痛みが重く残りますが、治療やリハビリで改善しますから。

 食道がんのリスクの一つはアルコールです。よくお酒を飲む方は、胃カメラでの食道チェックが欠かせません。私も胃カメラ検査のとき、「食道もよく診てください」とお願いしています。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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