名医が答える病気と体の悩み

要介護認定を受けたものの本人が拒否したら家族はどうするべきか

デイサービスへは「運動を教えてくれるよ」と誘ってみる
デイサービスへは「運動を教えてくれるよ」と誘ってみる

 認知症の方が介護保険を利用して介護サービスを受けるためには「要介護認定」を受ける必要があります。これには「要支援」と「要介護」の2種類があり、日常生活の中でどのくらい介護を必要とするかにより判断が異なります。

 要支援は、基本的に自力で日常生活を送れる状態が該当し、さらに2段階に分けられます。一方、要介護は自力で日常生活を送るのが難しく身体機能の他に判断力や理解力などの認知機能に低下を伴う状態が該当します。1~5段階に分類され、数値が大きいほど重度を表しています。

 要介護認定を受けるには、まずはお住まいの市区町村の窓口で申請する必要があります。ご家族からの要請で、本人の様子をよく見ているかかりつけ医が意見書を書き、申請後は自宅に直接調査員が訪れ、認知症が疑われる本人や家族への聞き取り調査を行います。調査後はその内容をもとに審議会が開かれ、要介護認定を下すかが判断されるのです。

 しかし、ほとんどの人が調査員の前で自分はまともだと主張し、介護を受けることを拒否します。調査員に対して「自分が認知症と言われる筋合いはない」と怒るケースもよく見られます。ですが、怒るのは認知症の症状のひとつだと分かっているので、本人が調査員の前でどんなに取り繕ったとしても要介護認定を受けることは可能です。

 要介護認定を受けると、所得にもよりますが、1割負担額でデイサービスに通えます。通所してもらうと毎日介護をしている家族の負担は減りますが、本人は嫌がるケースがほとんどです。認知症の方は認知機能の低下によって前日の行動を思い出せません。そのため、デイサービスに通っていること自体を忘れてしまい、なぜ行かなければならないのか分からず、知らない場所に連れていかれるのを怖がるのです。

 また、デイサービスと聞くと、認知症の方や病気の人が通う場所だというマイナスの印象を持つ高齢者が多いので、デイサービスに行ってもらう際には「介護」や「デイサービス」という単語を使わないよう意識しましょう。通所を促す際、「健康な体でいるためには運動しないといけないけど、一人で運動するのは難しい。でも、デイサービスに行くと運動を教えてくれる上に、送迎までしてくれるんだよ」と伝えると本人は進んで行くようになります。

 認知症の方は直前の記憶がなくても、若い頃の記憶は比較的残っています。仕事の習慣があった人であれば、デイサービスを職場に見立てて「○〇さんにぜひお願いしたいお仕事があるので職場に来てくれませんか」と伝えると、自分は頼られているんだと自尊心が高まり、気分良く行ってくれるケースが多いです。

 施設内にサークルクラブをつくっているところもあります。以前から将棋や囲碁、料理などの趣味がある人であれば、ケアマネジャーに相談して趣味ができるデイサービスを探してもらうといいでしょう。

▽内野勝行(うちの・かつゆき) 帝京大学医学部医学科卒業後、同大学医学部付属病院神経内科非常勤医などを経て、金町駅前脳神経内科院長。厚生労働省認定認知症サポート医、緩和ケア認定医。著書に「記憶力アップ×集中力アップ×認知症予防 1日1杯 脳のおそうじスープ」がある。

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