老親・家族 在宅での看取り方

病院では難しかった細かいケアも自宅でなら思うようにできる

在宅医療は自宅での日常もサポート
在宅医療は自宅での日常もサポート

「現在入院中ですが、GWまではもたないと病院で言われています」

 3月の中旬、ケアマネジャーさんから在宅医療の相談を受けました。

「訪問診療が決まれば退院して自宅に帰れるということで訪問診療を探しています。あけぼのさんにお願いしたいと思っています。患者さんは4月10日の退院を目指しており、その日に初回訪問希望です。ほかに詳しい情報が手元になくて……。患者さん、ご家族と相談し、正式な依頼は再度ご連絡いたします」

 その患者さんは前立腺がんの末期。奥さまと2人暮らしで、近所に娘さんが住んでいます。入院前から認知機能も低下しており、場所や時間を誤認するなど、覚醒レベルに異常が生じるせん妄の症状もみられていました。

 そんなこともあって、在宅医療を開始したタイミングでは、患者さんは余命についてハッキリと知らされていませんでした。

「聞いておきたいこととかありますか?」(私)

「病院の方で3回くらい病気について告知されたみたいですけど、本人に聞いたら何も知らないみたいで」(娘)

「今後お伝えしてほしいですか?」(私)

「最初は知らせない方がいいかと思っていたんですけど、病院の先生にいろいろ聞いてから、やっぱり伝えておいた方がいいのかなって。余命もそうですが、せめて自分の病気くらいはって。ただ認知症的なところもあって」(娘)

「お話ししている中で、今後診察を重ねて信頼関係を築きながら状態が落ち着いてきたら、説明していく形でいいですか?」(私)

「それで大丈夫です。私たちからはとても伝えられないので」(娘)

 自分の病気のことを知らないでいるそのことが不憫であり、できるだけ納得のいくように残された時間を過ごしてほしいという思いから、ご家族の決断で在宅医療を始められたとのこと。

「食欲があんまりないですか?」(私)

「ないですね」(患者)

「水分は取れていますか?」(私)

「取れています。でも皮膚が乾燥してね」(患者)

「そうですね、乾燥していますね。何か保湿剤を塗った方がいいかもしれないですよね」(私)

「私が持っているクリームを塗ろうかな」(娘)

 病院に入院中にはかなえられなかった患者さんへの細かいケアができることに、娘さんは安心されているご様子。

「今体調のことで困っていることはありますか?」(私)

「不安定ですかね」(患者)

「痛みはどうでしょう?」(私)

「痛みはないですね、治まってます」(患者)

「痛みのお薬は病院で調整してくれていたかなと思うんで」(私)

「そうですね、それにしても入院は長かったですね」(患者)

 自宅に帰って安心されているのは、患者さんも同様です。

「お家でも点滴はできるんですが、なるべく点滴もしたくないかと思うんですよね」(私)

「そうですね」(患者)

「帰ってきたらポカリスエット3分の2ぐらい飲んでます」(娘)

「病院と違って好きなものを飲めますね」(私)

「そうですね」(患者)

 自宅での日常もサポートしながら、患者さんとの信頼関係を築いていくのが在宅医療だといえます。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

関連記事