医療だけでは幸せになれない

医学的に正しい情報とは…「病態生理学的正しさ」と「疫学的正しさ」の違い

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 医学的な「正しさ」というと、何かすでに確立した基盤があると思われるかもしれない。しかし、個別の患者にとっての「正しさ」で言えば、いまだ何が正しいのかよくわからない。それが最先端の現代医療にも当てはまる。さらに、一般的な医学的な正しさという点でもいまだあいまいな部分が多い。研究が重ねられるにつれ判断が困難になるという逆説は、より個別の医療の提供が求められると同時に、一般的な正しさもそれに合わせて変わっていくほかないのが実情だ。そのことを血圧についての医学的正しさを例に見ていこう。

■激変する医療だからこそ知っておきたい

「高血圧は脳卒中や心筋梗塞を引き起こす」というのは一般にもよく知られた情報のひとつだ。これを患者に説明するとき、2通りのやり方がある。ひとつは、「血管が高血圧により高い圧力にさらされ続けると血管の内側の細胞に傷がつき、やがては血管から出血する。それが脳の血管で起これば脳出血になる。一方、傷からコレステロールが入り込んで血管の内部に張り出してくればやがては血管を詰まらせる。それが心臓の血管で起きれば心筋梗塞になる」と説明できる。これを病態生理学的説明という。病気が起きるメカニズムの説明ということである。個別の患者で起きていることを説明するという点で個別の患者にとってはわかりやすい説明と言えるだろう。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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