医療だけでは幸せになれない

医学的に正しい情報とは…「病態生理学的正しさ」と「疫学的正しさ」の違い

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 それに対して、後者の疫学的説明の方は、高血圧でも何ともない人がいるという説明に合致し、納得できる面がある。個別に起こることに対して、現在の医学は一貫した説明手段を持っていない。状況に応じて、納得が得られやすい説明があるに過ぎない。個別の条件がより個別化すればするほど、一貫した説明は困難になる。「正しい情報」といっても、この病態生理学的説明と疫学的説明のような矛盾がある。医学的な説明に限っても「正しさ」が複雑なのだ。さらに現実の判断の場では、医学的な正しさだけでは判断できない。さらに別の「正しさ」を検討する必要がある。社会学的、人類学的、倫理学的、経済学的、政治学的、哲学的な正しさ、それぞれの正しさがある。

 今後は、これらの多くの「正しい情報」のうちの「医学的に正しい情報」の、そのまたひとつである「疫学的に正しい医学情報」についてしばらく取り上げていく。これは「統計学的に正しい情報」と言い換えてもいいかもしれない。いずれの説明を使うにしろ、これは「正しい情報」のほんの一部に過ぎないと、最後にもう一度強調しておきたい。

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名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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