第一人者が教える 認知症のすべて

今日も「健脳カフェ」は賑やか 学生も入り交じり会話が弾む

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 毎週金曜日の朝10時から開いている「健脳カフェ」。コロナ禍でも毎週のように通ってこられる方がいたのですが、ゴールデンウイーク明けの先日は、お天気が良かったこともあり、一層賑やかでした。用意した椅子がすべて埋まり、新たに椅子を設置するほど、たくさんの方が集まりました。

「その日が通って30回目」「もうすでに30回を突破」という方がお2人。週に1度の開催ですから、30回というと、毎週通ってもかなりの期間になります。 

 家族の都合でしばらく休んでいた方もお久しぶりに顔を見せてくれ、「◎さん元気そうですね!」「歩き方がしっかりしたように思う!」など、あちこちで歓声が。 

 健脳カフェには、違う世代の者同士の交流を図る意味合いもあり、上智大学の老年心理学研究室の学生さんも毎回参加しているのですが、そこかしこで会話が弾んでいました。

 その日は、10時半から11時半まで筋肉向上ができる簡単運動プログラム「ラクティブ」開催の日。座ってできる体操なので、足元がおぼつかない人でも問題なくできる。「私はいいわ……」といった感じで輪に入らず離れて見ていた女性も、参加者の「一緒にやりましょうよ」「ここの席に来て」という誘いかけ、さらには手を取っての案内に、最終的には加わって、ラクティブの先生の掛け声に合わせて手足を動かしていました。

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社会的なつながりが良好な人は認知機能低下が緩やか

 オーストラリアのニューサウスウェールズ大学の研究者は、加齢が認知機能に及ぼす影響を調べた、公表済みの13の研究を統合させ、新たに分析。その結果は、2022年10月20日の「Lancet Healthy Longevity」誌電子版に掲載されました。

 もとになった13の研究は、ブラジル、中国、イギリス、中央アフリカとコンゴ、スウェーデン、ギリシャ、韓国、ドイツ、マレーシア、オーストラリア、アメリカ、プエルトリコ、シンガポールで行われたもの。社会的なつながりの強さと認知症リスクの関係を調べた研究は数多くあるものの、研究者によって指標がさまざまであるため、明確な結論は得られていませんでした。

 今回の分析では、配偶者やパートナーがいる人は、そうでない人と比べて全般的認知機能のスコア低下が遅く、同居人がいる人は、1人暮らしに比べて全体的な認知機能に加え、記憶力や言語能力の低下が遅いことも示唆されました。

 また、家族または友人と週1回交流すること、週1回コミュニティーグループに参加することは、交流やグループへの参加がない場合と比べて記憶力の低下が遅く、孤独を感じずにいることは全般的認知機能の低下や実行機能の低下が遅いと予測。

 男女別の分析では、女性では「配偶者がいる/パートナーがいる」人は、そうでない人より記憶力の低下が遅く、男性にはそうした傾向は見られなかった。

 この研究での最終的な結論はこう。「配偶者・パートナーがいる」「同居人がいる」「週1回コミュニティーグループに参加する」「週1回家族や友人と交流する」「孤独を感じない」といった社会的なつながりが良好な人は、認知機能の低下が緩やかになる可能性がある──。

 軽度認知障害(MCI)や認知症でない人などを対象にした、認知症予防目的の「健脳カフェ」は、まさに社会的なつながりをつくる場。みんなでしゃべって、体を動かして、麻雀やカラオケに興じて……。楽しい時間が認知症予防につながるのです。

 当然ながら、そういった時間を持てる場は、健脳カフェに限りません。見渡せば、あなたのご自宅の近くにも、社会的なつながりを持てる場(麻雀教室やカラオケ教室、市民講座、ボランティアグループなどなど)があるはず。

 合う・合わないがあるでしょうが、まずはそこに足を向けてみてはどうでしょう。

新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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